<社説>施政権返還50年(7)新たな建議書 日米は真摯に受け止めよ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 県は沖縄の施政権返還(日本復帰)50年に合わせ「平和で豊かな沖縄の実現に向けた新たな建議書(新建議書)」を庁議で決定した。

 沖縄に負担を押し付ける基地問題を「構造的、差別的」と表現し、日本政府に早期解決を求めた点は評価したい。しかし、県民に対しこれからの沖縄のビジョンを示せたかというと物足りない。
 構造的な沖縄差別は「対米従属的日米関係の矛盾を沖縄にしわ寄せすることによって、日米関係(日米同盟)を安定させる仕組み」(新崎盛暉氏)と定義される。したがって沖縄だけでは解決できない。日米両政府はこの訴えを真摯(しんし)に受け止めると同時に、日本国民一人一人が沖縄の訴えに耳を傾けてもらいたい。
 日本復帰直前の1971年11月17日、琉球政府の屋良朝苗主席(当時)が政府に、「復帰措置に関する建議書(屋良建議書)」を提出しようとした。沖縄の歴史について「余りにも、国家権力や基地権力の犠牲となり、手段となって利用され過ぎた」と指摘し、自己決定権の確立を求めた。
 しかし、建議書を届ける前に国会は衆院特別委員会で沖縄返還協定承認案を強行採決し、沖縄の声を無視した。
 新建議書は、今なお残る課題の解決と、県民の望む将来像を提示し、平和で豊かな沖縄の実現に向けた政府への要望をまとめた。県民の思いを過不足なくまとめているが、「こういう沖縄をつくりたい」という夢や具体的なビジョンが足りない。
 例えば、新建議書は国家戦略としての沖縄振興の推進を引き続き求め、自立型経済の構築に向け具体的な構想を十分示せていない。復帰50年が経過してもなお、政府の政策実現や資金投下が必要だと「お願い」するような姿勢は、屋良建議書で掲げた自己決定権の確立とは相容れない。
 「基地のない平和の島」を掲げながら、なぜ自衛隊強化の動きに触れなかったのか。台湾や尖閣諸島で不測の事態が起きた時に沖縄が戦場になる危険性が高まる。この点を県はどう考えているのか。
 基地問題解決に触れない沖縄振興策の問題点や、基地とリンクさせるかのような沖縄予算の在り方、一括計上の再検討なども示してほしかった。
 名護市辺野古の新基地建設の断念や日米地位協定の抜本的見直し、アジア太平洋地域の信頼醸成や緊張緩和に貢献する地域協力外交を盛り込んだ点は、評価したい。
 屋良建議書が無視された日、屋良主席は「沖縄県民の気持ちと云うのはまったくへいり(弊履)の様に踏みにじられる」と憤激した。「へいり」とは破れた草履を意味する。佐藤栄作首相は抗議に訪れた屋良首席のことを日記に「陳情」と記した。沖縄代表の訴えは「陳情」程度にしか映らなかったのだろうか。
 半世紀前のように沖縄の民意が踏みにじられることがあってはならない。