<社説>マリウポリ「制圧」 今こそ停戦交渉の好機だ

 アゾフスターリ製鉄所を拠点に抵抗したウクライナ部隊が「降伏」したため、ロシア軍はウクライナ南東部のマリウポリを完全制圧した。ロシア国防省によると、停滞する東部戦線へ部隊を転戦させ攻勢を強める考えで、戦闘の長期化が予想される。長期化による最大の犠牲者は民間人だ。これ以上の犠牲を出さないた
めに一日も早く停戦すべきだ。

 今ならロシアはマリウポリでの戦果を強調できる一方、ウクライナ側も激しい反撃で重要港湾都市オデッサを維持し「負けていない」とアピールできる。今こそ停戦交渉を再開できるタイミングだ。国際社会も、この好機を逃さず停戦交渉を促すべきだ。
 ロシアのプーチン大統領は「ネオナチ」との戦いとしてウクライナ侵攻を正当化してきた。製鉄所で抵抗したアゾフ連隊はロシアが「ネオナチ集団」と呼ぶ部隊。その拠点を制圧したことで国内に戦果をアピールできる。
 一方で英政府の推計によると、ロシア兵の戦死者は約1万5千人に上り、部隊は疲弊しているという。西側諸国の経済制裁でロシア国民の生活も苦しいとみられる。
 対するウクライナ側はマリウポリが制圧されたが、黒海に面し穀物の主要積み出し港があるオデッサは制圧されておらず経済的な致命傷には至っていないもようだ。ただ民間人の死者は数万人に上り壊滅状態の街も多いという。
 両国の犠牲は既に大きい。お互いに「まだ負けていない」と言える状況にある今だからこそ、停戦へのテーブルに着くべきだ。この時機を逃せば戦争は長期化し、犠牲は途方もなく膨らむ恐れがある。両国は世界的な穀物の供給源なので貧困国をも直撃する。
 過去に紛争地で武装解除などを担った伊勢崎賢治東京外語大教授は「今、国際社会が目指すべきは、両国間の停戦の合意形成だ。西側諸国や日本は真逆のことをしている。なぜ武器や装備を送って戦争を継続させる支援をするのか。今のやり方では、武器は最終的に誰の手に渡るか追跡できず、武装勢力の乱立につながる恐れがある」と指摘、ウクライナ市民の命を救うため停戦を目指すべきだと強調する。
 クリミア半島やドンバス地方の主権を巡る交渉やロシアの戦争犯罪への追及は停戦した上で、時間をかけて話し合い、解決を模索すればよい。
 作家の半藤一利氏の「昭和史」によると、第2次世界大戦中、連合国が無条件降伏を求めたため日本は和平交渉を進めにくい状況に陥ったという。重臣らに和平を提案された昭和天皇は、「もう一度戦果を挙げてから」と答えたため沖縄戦、原爆投下につながった経緯がある。
 戦争長期化は多大な犠牲を生むとの教訓を今こそ学ぶべきだ。ウクライナ侵攻は住民の4人に1人が亡くなった沖縄戦と重なる面が多い。「命どぅ宝」の観点からも一日も早い停戦こそが最善の道だ。



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