<社説>消費者物価2%上昇 賃上げへ官民の知恵絞れ


社会
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 4月の全国消費者物価指数が前年同月比で2・1%上昇した。消費税増税の影響を除けば、約13年半ぶりの伸び率である。

 ロシアのウクライナ侵攻に伴い、原油や小麦などの原材料高、円安による輸入品価格の押し上げなど生活に必要な品が総じて上がった。
 賃金が横ばいの中で物価だけが上がり、実質的に働く人々が手にするお金はマイナスに陥っている。政府は賃上げを重要政策に掲げているが、現状のままで十分なのか。官民の知恵を結集し、物価に追い付く賃上げを実現しなければ、日本経済が低迷から脱することはできない。
 企業間で取引される商品の価格水準を示す国内企業物価指数も、4月に前年同月比10・0%上昇した。比較可能な1981年以降最大で2桁の伸びは初めてとなる。
 エネルギー価格の伸びは顕著だ。沖縄電力の電気料金平均的モデル(月間使用量260キロワット時)は、2021年1月に6925円だった。22年4月では8823円となり、1898円上がった。年間なら2万円超の負担増となる。
 一方で厚生労働省の毎月勤労統計調査(22年3月速報値)によると、物価上昇を加味した1人当たりの実質賃金は0・2%減っている。
 物価上昇と賃金の減少を合わせれば、手取りが実質2・2%減っている。しかも生活に不可欠な電気・ガス、食料品の値上げは生活を直撃する。象徴的なのは1皿100円の回転すしチェーンの値上げだ。外食すら気軽に楽しめる雰囲気ではなくなりつつある。
 13年に政府・日本銀行が共同声明を発した「2%の物価安定目標」は、労働者の賃金上昇による消費拡大を前提に、企業の収益向上など好循環を目指した。現状は「2%」という数字だけが外的要因によって到達し、中身を伴わない。「悪い物価上昇」といわれるのはそのせいだ。
 政府は賃上げを実現した企業には最大40%の税控除を打ち出している。しかし原料高などコスト面で収益を圧迫された中小企業に賃上げの余裕があるか疑問だ。しかも2年間の時限立法であり、将来も人件費を負担する企業にとって魅力的な制度だろうか。
 仮に円安を逆手に取るのであれば、訪日外国人客を呼び戻し、観光産業を軸に経済再生を目指すのも一つの案だ。そのためには医療や衛生面での設備投資、人材育成が不可欠になる。特に内部留保を多く持つ大企業には、コロナ後を見据えて積極的な投資を望みたい。それを後押しする優遇税制など政府の制度設計も必要になるだろう。
 沖縄でも高付加価値、持続可能な産業の育成が県民所得向上に不可欠だ。県の第6次観光振興基本計画案で、従来の指標である観光客数を延べ宿泊者数に変更したのが一例だ。提供するモノやサービスを「量」でなく「質」で測る意識変革も求められる。