<社説>サミット広島開催へ 核軍縮向け確実な成果を


社会
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 岸田文雄首相は、日本が議長国を務める来年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)の開催地を広島市で開催すると表明した。戦争被爆地での開催は初めてだ。

 23日の日米首脳会談では核兵器・不拡散に関する現実的、実効的取り組みを進め「核兵器のない世界」へ取り組むことで一致している。
 一方で会談では、中国を念頭に米国が核兵器と通常戦力で日本防衛に関与する「拡大抑止」の強化でも一致している。明らかに矛盾する。日本国内では米国の核兵器を共同運用する「核共有」政策の議論を求める声があり、核軍縮に逆風が吹いている。その中での広島開催である。逆風をはね返し核軍縮を確実に進める成果が求められる。
 核軍縮の機運は後退しているのが現実だ。ロシアのウクライナ侵攻で核兵器使用の可能性が指摘され、核攻撃の脅威が高まった。核兵器禁止条約を巡っても、米英仏3カ国を含むG7はいずれも署名しておらず、核廃絶を訴える国々との溝は深い。
 日本は唯一の被爆国でありながら署名しておらず、締約国会議へのオブザーバー参加もしていない。米国の「拡大核抑止(核の傘)」に依存する姿勢だからだ。同盟国への攻撃に核で報復するという拡大核抑止は矛盾に満ちている。核弾頭付きの短中距離核ミサイルは一度打ち合えば迎撃困難とされる。米国が核兵器を使えば米国も報復を受ける。同盟国のために自国民を犠牲にしてまでも米国が核攻撃に踏み込むかが疑問視される。
 米中ロ英仏の核保有五大国は今年1月、「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」という共同宣言を発表した。核保有国は、この声明に立ち返るべきである。核禁止条約は「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」とし、核兵器の開発や実験、保有、使用の威嚇も禁じることで核抑止を否定している。この精神こそ核軍縮の基本だ。
 日本政府は昨年11月、米バイデン政権が核の先制不使用宣言に意欲を示した際、懸念を伝え、宣言が見送られた経緯がある。2016年に当時のオバマ米大統領も広島訪問を機に検討したが、日本やNATO諸国の反対で断念した。大きな理由は、日本を説得するのが難しいと判断したことだったという。
 先制不使用は核保有の目的を核攻撃抑止と報復に限ることで核戦争のリスクを減らす狙いがある。この宣言を被爆国・日本が否定し阻止する現状はまさに矛盾だ。
 岸田首相は核軍縮に向けて関係国の「橋渡し」を目指すという。ならば締約国会議にオブザーバー参加し、米国に核先制不使用宣言を促すことが、その着実な一歩だ。「核兵器のない世界」を掛け声に終わらせず、実効性ある成果を出すことが岸田首相の責務である。被爆者や原爆犠牲者遺族の苦しみを二度と繰り返してはならない。