<社説>OIST起業家支援 世界水準 沖縄に還元を


社会
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 世界水準の研究が評価されている沖縄科学技術大学院大学(OIST)のピーター・グルース学長が、研究で生まれた知的財産をスタートアップ(起業)に生かす「イノベーション・ハブ」構想の概要を明らかにした。

 沖縄は基地、公共事業、観光の「3K依存」の経済から、高付加価値、持続可能な新たな産業の育成が求められている。OISTが生み出した世界水準の研究成果を沖縄に還元し、自立経済の確立を後押ししてもらいたい。
 OISTは沖縄振興の一環として2011年に創立した。教員と学生の半数以上が外国人。他の国内大学と比べて潤沢な運営費の交付があったことで、世界的な研究者を引きつけ、高い研究パフォーマンスを示してきた。世界有数の学術出版社シュプリンガー・ネイチャーの「質の高い論文ランキング」(2019年版)は世界9位。東大、京大を抑え国内1位だった。
 文部科学省ではなく沖縄振興策として内閣府が所管し、沖縄振興予算の一部が拠出されている。沖縄振興の課題である新たな産業の創出・育成、全国最下位の1人当たり県民所得の改善などへ貢献しているのかどうか疑問の声も聞かれる。22年度の沖縄関係予算の総額は前年度比約330億円減の約2680億円と過去にない減少幅となった。予算が減額されるなかで、OIST関連経費193億円が計上されている。
 研究成果を、沖縄が抱える課題の解決に貢献してもらう必要がある。「イノベーション・ハブ」構想が大学発の起業支援としてしっかり結果を出してもらいたい。
 OISTの構想は、現キャンパスの北寄りに研究棟や住居、創業初期の起業家を支援する「インキュベーション施設」などが集積するノースキャンパスを整備する。
 ノースキャンパスは自動運転車などが走る「スマートシティー」の整備を目指し、地元の人々や観光客が楽しめる科学アミューズメント施設エリアも整備する計画だ。
 ベンチャーキャピタルファンドとも連携し、年末までに40億~50億円を調達する。さらなる投資を呼び込むために健康長寿、量子コンピューターによるサイバーセキュリティー(CS)分野の研究にも注力する方針を掲げている。波力発電など海洋再生エネルギーも実用化が待たれる。
 グルース学長は昨年の講演で、米国では新しい雇用の3分の2が、起業から5年未満の企業によって創出されているとして、起業の必要性を強調していた。
 OISTが作成した調査報告によると、教員が100人体制になると、県内経済への生産誘発額は491億6600万円、雇用誘発者数は4568人に上る。ノースキャンパス実現で同程度の波及効果があるとみられる。県内他大学との連携も強化し、知の集積を図ってもらいたい。