<社説>自民機関紙印象操作 実態ゆがめる姿勢改めよ


社会
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 自民党は機関紙「自由民主」のインターネット版に日米地位協定について米軍関連の事件や不祥事の度に「共産党系等の会派」から改定を求める意見書が提案されると記した。共産党が「日米同盟の不安定化を狙ってこうした主張を繰り返している」とも論じた。

 この見解はあまりにも実態と異なる。実際は、沖縄県議会の自民党会派も含め全会一致で地位協定の抜本改定要求を決議してきた経緯があるほか、全国知事会も総意として改定を政府に求めてきた。
 自民党本部の見解は、日本の主権や国民の人権よりも「日米同盟」を優先する対米従属姿勢が根底にあるように映る。米統治下の沖縄で米軍が米統治に異を唱える人々・団体を「共産主義者」とレッテルを貼って弾圧したやり方にも通底する。改定要求の主体は「共産系」だけであるかのような印象操作はプロパガンダ(政治宣伝)と言っても過言ではない。実態をゆがめる姿勢は改めるべきだ。
 自民機関紙は「地位協定のあるべき姿を目指す」と題し、地位協定は日米安保体制に「極めて重要」と強調。「米軍人による犯罪や不祥事が起こると、たびたび日米地位協定の改定を求める意見書が共産党系等の会派から提出されます。共産党は日米安全保障条約の『廃棄』を主張する政党ですから、日米同盟の不安定化を狙ってこうした主張を繰り返している」と記した。
 この見解に対し県選出の共産党衆院議員・赤嶺政賢氏は「安保廃棄を掲げているが、地位協定の改定はそのためではない」と反論する。米軍が集中する沖縄をはじめ米軍基地と隣り合わせに生活する住民にとっては安保の是非と言うよりも暮らしの問題だ。地位協定の壁があるため米軍による事件事故や騒音、環境汚染などが改善されない実態がある。これらは党派や政治的立場、地域を超える問題だ。
 県と県内基地所在市町村でつくる県軍用地転用促進・基地問題協議会(軍転協)や日本弁護士連合会(日弁連)も改定を求めてきた。全国知事会も2018年に日米地位協定の抜本改定を含む政府への提言を全会一致で採択した。
 政党に支給される交付金約315億円のうち自民党は最多の約160億円を受け取っている。多額な税金を基に活動している立場をわきまえ、国民の正確な判断に資するためにも印象操作はあってはならない。改定問題を政争の具にせず、実態を基に正々堂々と政策論争をすべきだ。
 県議会は、米海兵隊員の強制性交等致傷事件への抗議決議・意見書を、自民会派を含む全会一致で可決し、26日に政府関係機関に提出した。米軍基地関係特別委員会の照屋守之委員長(沖縄・自民)は地位協定の改定は「県民の総意だ。抜本的に解決できる仕組みを県も国も一緒に作りたい」と述べ、改定を求めた。自民党本部は県議会や党県連の要求に応えるべきだ。