<社説>武器輸出「緩和」検討 9条の理念を裏切るな


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 事実上の禁輸政策の転換である。政府は31日に発表した経済財政運営の指針「骨太方針」に、防衛装備品(武器)の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」や運用指針の緩和を検討することを盛り込んだ。武器輸出を拡大しようという狙いだが、周辺諸国や不戦を誓った憲法9条へ信頼を寄せる国々に不信感をもたらすだけだ。

 日本が輸出した武器が紛争当事国で使われれば、一方の当事国からは「日本が手を貸した」と見られてもおかしくない。国際紛争を解決する手段として、武力を永久に放棄すると誓った9条の理念を裏切ってはならない。
 ロシアのウクライナ侵攻により、既に政府は三原則の運用指針を改定し、ウクライナに防弾チョッキなどを提供した。これに対し、自民党内から侵略を受けた国には、欧米のように殺傷力のある装備=武器も提供すべきだという意見が上がった。今回の改定方針は自民の提言を受けてのものでもある。
 三原則の前身である「武器輸出三原則」について、1976年の政府統一見解は「平和国家としての我が国の立場から、国際紛争等を助長することを回避する」として、武器の輸出禁止を明確にした。
 しかし2014年に当時の安倍内閣が防衛装備移転三原則を閣議決定し、武器輸出三原則に基づく禁輸政策を撤廃した。安倍晋三首相(当時)は「具体的な基準や手続き、歯止めを今まで以上に明確化」すると語っていた。だが実態はなし崩し的に装備移転を進めている。武器の一つといえる防弾チョッキをウクライナに供与したのも自衛隊法の恣意(しい)的な解釈や特例による。
 武力を否定する平和国家としての国是は、時の政権によっていとも簡単に覆されてきた。国会の議論なくして、国の根幹といえる方針を変えてよいはずがない。
 一方で防衛装備移転三原則緩和の背景には、国内防衛産業の維持という目的もある。国内では自衛隊以外の顧客がなく、利益率の低さから撤退する企業が相次ぐのが現実である。現状では防衛関連産業の開発・研究能力を維持できないという危機感が自民や経済界にあるとされる。企業を守るために国の原則を曲げることは本末転倒だ。
 2月24日付日刊工業新聞によると、防衛関連各企業の売り上げに占める防衛事業の比率は、2018年度が平均5%だったのに対し、19年度は平均3%に落ち込んだという。収益への寄与が少ない分野に、果たして企業が力を注ぐだろうか。
 骨太方針では防衛力の抜本的強化を掲げ、弾薬確保や相手の射程圏外から攻撃できるミサイル防衛の強化などもうたっている。しかし日本が技術開発、国際競争力確保に注力すべきは宇宙開発や再生エネルギーなど民生分野にこそある。武力以外に官民の英知を使うべきだ。