<社説>県子どもの貧困調査 雇用の質改善が急務だ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 県は2021年度沖縄子ども調査の報告書を公表した。小学5年と中学2年の親子を対象に分析した結果、新型コロナウイルスの影響で低所得層がさらに困難な状況に置かれていることが浮き彫りになった。

 「子どもの貧困は親の貧困」と指摘されている。非正規の正規化など雇用の質の改善につながる取り組みが急務だ。子育てや教育に対する支援も拡充する必要がある。
 調査報告書によると、18年調査と比べ、最も所得が低く困窮世帯とされる層(低所得層I)の割合が小5では1・8ポイント増の28・5%、中2では3・3ポイント増で過去最多の29・2%になるなど、初めて悪化した。
 低所得層Iの正規雇用率をみると、小5は16・2%で、一般層の3分の1にとどまる。この層はひとり親がふたり親の2倍以上を占める。中2の父親の「自営業」の割合も一般層の3・6倍だ。
 低所得層Iの現在の暮らしぶりについて小5と中2の保護者の半数以上が「苦しい」「大変苦しい」と答えた。急な出費に備える5万円以上の貯金がない割合も小5と中2でいずれも46%に上った。新型コロナの長期化で経済雇用状況の悪化による影響があるのだろう。
 加えてロシアのウクライナ侵攻に伴い、原油や小麦などの原材料高、円安による輸入品価格の押し上げなど生活に必要な品が総じて値上がりしている。賃金が横ばいの中で物価だけが上がり、実質的に働く人々が手にするお金はマイナスに陥っている。低所得層だけでなく県民全体の家計に重くのしかかっている。
 政府は賃上げを重要政策に掲げ、賃上げを実現した企業には最大40%の税控除を打ち出している。しかし原料高などコスト面で収益を圧迫された中小企業に賃上げの余裕があるか疑問だ。しかも2年間の時限立法であり、将来も人件費を負担する企業にとって魅力的な制度だろうか。暮らしを支える施策が不十分だ。
 貧困の再生産を防止するためにも、非正規から正規化へ雇用の質を改善する取り組みの加速化も求められる。
 一方、自由記述を見ると、低所得層に限らず、義務教育段階の支出が多く、生活に余裕が持てないという意見もあった。多くの世帯で収入が落ち込む中、節約できない学用品や学童保育の料金が家計の重しになっている。
 文部科学省の地方教育費調査(20年度)によると、沖縄県の公的負担は児童が69万3千円で全国43位、中学生が88万2千円で35位。全国平均93万3千円に届いていない。
 経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、日本の教育費の公的負担は低水準だ。本来は政府が取り組むべき課題だが、待ってはいられない。県は教育分野へ集中的に予算を充て、子育てや教育に重点配分し従来にない大胆な施策を展開してもらいたい。