<社説>党首討論見送り 言論の府の形骸化を憂う


社会
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 通常国会は15日に会期末を迎える。立憲民主党などが求めた党首討論は見送られる。

 党首討論は、外交や国民生活に直結する問題を徹底的に議論する場である。しかし、昨年秋に岸田文雄首相が就任して以来、いまだに実現していない。言論の府の形骸化を憂える。
 党首討論は、国会審議の活性化を図る国会改革の一環として2000年から導入された。首相と野党党首が1対1で議論する。本会議や他の委員会での質疑とは異なり、首相から野党党首に逆質問ができる。これまで68回開催され、19年は1回、20年はゼロ、21年は1回と減少傾向にある。
 減少の理由として、1回の討論時間が45分で、多党化している野党に振り分けられる時間が短いことが挙げられる。それなら制度導入当初の申し合わせ通り、週1回の定期開催を原則とし、開会回数を増やせば改善できる。
 1千兆円を超える国家の借金をどうするのか。新型コロナ禍後の社会の在り方をどう描くか。ウクライナ侵攻を機に外交・安全保障政策をどう捉えるか。少子高齢化、年金・医療・社会保障など日本が抱えている問題は山積する。トップ同士の議論を通じて、国民に分かりやすく提示していくことが、政治を国民の手に取り戻す大切な機会となるはずだ。なぜ、その貴重な場を自ら手放すのか。
 党首討論見送りだけでなく、今国会会期中に、政治全体が劣化し、言論の府として看過できない事態が噴出した。
 国会議員が歳費とともに毎月手にする100万円の調査研究広報滞在費(旧・文通費)は、支給方法や使途の透明性が問題になり日割り支給に改めた。しかし、地方議会の政府活動費で当たり前の使途公開や未使用分の返納についてまとまらず棚上げにされた。
 4月には、衆院赤坂議員宿舎の家賃が約1割引き下げられた。国民が物価高にあえぐ中で、都心の一等地にあり、周辺の相場より格安な物件のさらなる値下げが果たして必要だったのか。
 9日の衆院本会議では細田博之議長に対する不信任決議案が否決された。決議案の理由となったのは、週刊誌が報じた女性記者へのセクハラ疑惑などのほか、「月額100万円未満であるような手取りの議員を多少増やしても罰は当たらない」との発言だ。細田氏はいまだに説明責任を果たしていない。
 安倍晋三元首相の後援会が主催した「桜を見る会」前日の夕食会費補填(ほてん)問題を巡り、サントリーが酒類を夕食会に提供したことが発覚した。疑惑について安倍氏は国民に説明せず口をつぐんだままだ。
 国会議員の好待遇ぶりや国民感覚とのずれが目立つ。政治不信は解消されるどころか、不信感を深めてしまった。7月の参院選に向け、有権者は候補者一人一人の言動をよく見極めて意思表示してほしい。