<社説>こども家庭庁法成立 当事者主体の政策実現を


社会
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 「こども家庭庁」設置関連法案が参院本会議で可決、成立した。

 行政の「縦割り打破の象徴」として子ども政策の司令塔となることが期待された。だが、教育分野は引き続き文部科学省が担い縦割りは残る。権限や予算の面でも課題がある。政府には当事者である子どもが主体の政策実現を第一に取り組んでもらいたい。
 虐待や自殺、貧困、いじめといった子どもを取り巻く環境が悪化している。国内の2021年の出生数は過去最少の約81万人。少子化対策も急がれる。
 児童虐待対応件数は2020年度に約20万5千件と過去最多を更新した。沖縄県内も過去最多で前年度より228件(14・2%)増加した。
 子どもの貧困も深刻だ。国連児童基金(ユニセフ)の子どもの幸福度調査(日本語版21年)によると、日本は生活に満足していると答えた子どもの割合が38カ国中37位と最も低いレベルだ。
 日本は国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合が2・8%。経済協力開発機構(OECD)加盟で比較可能な37カ国のうちアイルランドと共に最低だ。教育費負担の重さが家庭にのしかかる。
 こども家庭庁は、首相直属機関として子どもや子育てに関わる主な部署を、厚生労働省や内閣府から移す。教育分野を移す案もあったが文科省の反対で立ち消えになった。
 名称も変遷した。伝統的家族観を重視する自民党保守派議員の意向で「こども家庭庁」とした。しかし、議論の過程で親から虐待を受けた女性から「虐待された子どもにとっては家庭は恐ろしい場所だ」と指摘された。03年から16年までの間、虐待死は727人、心中による死は514人発生している。「家庭は恐ろしい場所」でもあるのだ。そこで当初、名称から「家庭」を外して「こども庁」としていた。
 国連の「子ども権利条約」は「家庭」ではなく、子どもの最善の利益になる施策を原則としている。その原則にのっとった政策に取り組んでもらいたい。
 こども家庭庁の担当閣僚は他省庁に資料の提出や説明を求めることができ、政策が不十分な場合に是正を要求する「勧告権」を持つ。だが、法的強制力がないので有効に機能するかどうか分からない。
 日本は子ども関連予算が欧州諸国と比べ低水準にある。GDP比の家族関係社会支出でみると、出生率が高いスウェーデンは3%を超えているのに対し、日本は2%未満だ。政府は子ども関連予算を倍増させる目標を掲げるが、財源の論議は先送りした。防衛費をGDP比2%に増やす議論の前に、子どもの財源確保が問われる。
 独立した立場から監視する第三者機関の設置も見送られた。子どもたちが生きる権利、育つ権利が保障される取り組みが求められる。