<社説>米軍機緊急着陸多発 軍事優先の構造を改めよ


社会
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 米海兵隊のCH53E大型輸送ヘリ1機が18日、国頭村宜名真に不時着した。同伴していた3機も鹿児島県与論島の与論空港に緊急着陸した。

 琉球新報の報道で確認できる範囲では、今年1月からの約半年で米軍は今回を含め11件の不時着・緊急着陸事案を起こしている。
 重大事故が起きる前に米軍の整備体制を見直すのは当然として、本質的な問題は軍用機が自由に沖縄の空を飛び回ることだ。軍事優先ともいえる構造を改めなければ県民は常に事故の恐怖にさらされる。日米両政府は直ちに沖縄の空に安全を取り戻す手だてを検討すべきだ。
 人身や物的被害こそなかったが、宜名真の不時着現場は最も近い集落まで約1・3キロしかなかった。与論空港では民間機の運航に遅れが生じた。与論の3機は燃料が「飛行継続レベルを下回った」としており、墜落などの重大事案になりかねなかった。
 この半年に起きた11件のうち、民間地域に影響を及ぼしたのは今回だけではない。1月13日には渡名喜村の村有ヘリポート、3月29日には新石垣空港、4月10日には宮古空港に緊急着陸している。
 危険が差し迫った航空機の避難が優先されるのはやむを得ないとしても、米軍は改善策などの事後説明が不足している。飛行困難になるまで燃料を消費する訓練計画が妥当なのか、機体整備に当たり、どのような安全確保策を講じているのか分からない。
 民間空港使用には至らなかったが、南大東空港では過去に一度もなかった米軍機の飛来通告が今年だけで3回あった。通告後に撤回したが目的や中止理由の説明もない。
 問題の根本にあるのは、米国の航空機や船舶が日本の港や飛行場に出入りできる旨を定めた日米地位協定第5条にある。米軍は民間施設を自由使用できる状態にあり、県が使用を自粛するよう求めても米軍は聞く耳を持たない。
 日本政府は国民の安全を守るためにも、まずは地位協定改定を米側に投げかける必要がある。いつまでも米軍優先の状況を放置したままでは独立国として疑われる。
 米軍が緊急着陸などを繰り返す背景にも目を向けるべきだ。内閣官房副長官補として安全保障政策を担当した柳澤協二氏は、本紙に寄せた論考(2022年2月4日付)で「沖縄や本土各地における(中略)民間空港などへの不時着も多発している。これは米空軍や海兵隊が離島などに緊急に展開するための訓練の一部である」と指摘した。
 対中国を念頭に、米軍が南西諸島を出撃拠点にしようとする構想の一環というのだ。沖縄を再び戦場にしかねない米軍の構想には反対の声を挙げねばならない。
 国防費を膨張させる中国への懸念は当然だ。しかし有事になれば被害が沖縄に集中する。日本は米国とともに対話による安定を模索すべきだ。