<社説>生活保護減額違法 失政を認め基準回復せよ


社会
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 生活保護受給者らが2013年以降の生活保護費引き下げが憲法違反だとして国を訴えた裁判で、24日の東京地裁判決は減額を取り消し、国の判断は裁量権の逸脱または乱用だと認定した。

 憲法判断は避けたものの、国の決定が生活保護法に違反すると司法が認めた意義は大きい。国は直ちに失政を認め、減額分の補償を含め、生活保護基準が適切になるよう回復措置を取るべきだ。
 同様の訴訟は沖縄を含む29都道府県で起こされた。これまで11件の判決があり、減額取り消しは大阪、熊本に次ぐ3例目となる。東京地裁の判決が重要なのは「大阪、熊本の延長線上だが、原告数も多く、上級審でも今回の基準は尊重される」(大山典宏高千穂大教授)可能性があるからだ。沖縄を含め、同種の訴訟に大きく影響するだろう。
 東京地裁の訴訟で原告が訴えたのは(1)生活保護費引き下げは憲法が保障する健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害している(2)受給世帯の消費実態を考慮していない(3)特異な物価上昇があった08年を起点として算定したことの妥当性―などだ。
 地裁判決は、ほぼ原告側の主張を認めた上で、引き下げを決めた厚労相の判断は「必要性、相当性の両面で、客観的数値との合理的関連性を欠く。判断の過程に過誤、欠落があると認められ、裁量権の範囲を逸脱する」と厳しく指摘している。
 そもそも生活保護の引き下げが議論されたのは、低所得世帯よりも受給額が多いという認識が当時の安倍政権にあったからだ。
 民主党政権下で生活保護費が増えたことに加え、芸能人家族の扶養の是非など受給者を中傷する出来事があった。そうした中、12年の総選挙で自民党は「生活保護費10%減」を公約の一つに掲げ、政権に返り咲いた。国民生活を守るというより「世論」におもねる空気が引き下げを実現したのは否定できない。
 同時にリーマンショック直前の原油高騰があった08年を起点に、それ以降の物価下落を減額の根拠としたことも合理性がない。08年以降の世帯消費は全体で減っているようだが、実態は電気や食料品などの生活に必要なものは値上がりした。総務省の家計調査によると、08年の単身世帯当たりの電気料金は5万8421円だったが、13年は6万5779円になっている。
 生活保護受給者にとって電気料金や食料費が支出に占める割合は大きい。受給額全体が減額されれば、負担はさらに重くなるだけだ。
 生活保護の基準は受給する当事者だけの問題ではない。最低賃金をはじめ、低所得世帯の就学援助や自治体の奨学金などの基準を含め影響は国民生活の多岐にわたる。
 文化的で健康な生活を誰もが等しく享受するためにも、合理的かつ公平な生活保護基準作りに国は着手すべきだ。