<社説>参院選・エネルギー政策 具体的なビジョン提示を


社会
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 猛暑に突入し、首都圏では連日、電力需給逼迫(ひっぱく)注意報の発令が続く。公示された参院選で各党の原発・エネルギー政策が注目されている。

 東日本大震災による東京電力福島第1原発事故を受け、民主党政権は「原発ゼロ」を掲げた。震災から11年が過ぎた。政権を奪還した自民党は原発を「ベースロード電源」と位置付け、原発活用を打ち出し、再稼働を進めてきた。
 一方、福島第1原発事故で避難した住民らが国に損害賠償を求めた集団訴訟で、最高裁は国の賠償責任を否定した。原発政策を推し進めてきた国の責任は問われず、政策への信頼は失墜している。各党は真っ正面から向き合って論戦を深めてもらいたい。
 参院選公約で自民党は再稼働について「安全が確認された原子力の最大限の活用を図る」としている。公明党は再稼働にあたり立地自治体の理解と協力が重要とする。日本維新の会や国民民主党も再稼働は安全基準の確認を前提に進めると主張している。
 選挙戦で各党は原発の安全の確認、保証について、責任の所在はどこにあるのかを示すべきだ。そうでなければ、立地自治体を含めた国民の理解は得られない。
 立憲民主党は「原発に依存しない社会を実現する」とし、共産党は原発の即時ゼロ、社民党は脱原発を推進すると訴える。
 代替となる再生可能エネルギーの利活用の促進には、巨額のコストがかかることにも向き合う必要がある。電力を融通する送電の仕組みや蓄電池の設置が必要だからだ。
 再エネの比率を高めるためにも、需要と供給が地域ごとに偏りのある状況を解消するためにも、コストのかかる送電網などの整備の必要性は高まるはずである。
 政府は温室効果ガスを2050年に実質ゼロにするカーボンニュートラルを目標としている。実現のためには火力へと立ち戻ることはできない。再エネ利用促進に向けた議論は避けて通れない。
 資源の多くを海外に依存する日本の中で、島嶼(とうしょ)県の沖縄ではエネルギー問題は県民生活に直結する。
 化石燃料の構成比率が高く、原油高の影響は電気料金や燃料の上昇につながるからだ。化石燃料の比率を減らし、再エネに切り替えていくには一層の努力が求められる。
 商船三井が久米島町で大規模な海洋温度差発電の実証実験を始めた。世界初の試みだという。沖縄科学技術大学院大学(OIST)では波力発電研究が進む。
 温暖化による気候変動の影響が大きい海洋県は、自然を生かした再エネ実用化の可能性を秘めた地でもある。一人一人が主権者としてエネルギー政策を見極めたい。
 論戦に臨む各党は、聞こえがいい言葉を並べるだけではなく、具体的なビジョンを示してもらいたい。