<社説>香港の中国返還25年 一体化加速を危惧する


社会
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 香港が英国から中国に返還されて25年となった。民主派や言論活動への締め付けを強めてきた中国の習近平国家主席が、記念式典に出席して演説し「一国二制度は誰もが認める成功を収めた」と述べ、香港国家安全維持法(国安法)や新たな選挙制度により「愛国者による香港統治」が実現したと主張した。

 「高度な自治」を50年維持するという約束が揺らいでいるというジョンソン英首相の批判に対し、中国外務省の趙立堅副報道局長は「英国は返還後の香港に対して主権も統治権も監督権もない。(約束は)存在しない」との立場を示した。
 約束違反を開き直っては国際的な信義を失うはずだが、それよりも一体化を急ぐことが国内的に重要だったのだろう。香港の一国二制度は消えうせた。中国との一体化が進み、香港の自己決定権が失われることを危惧する。
 1997年の香港返還は、84年の中英共同宣言で決定した。返還後50年間を「一国二制度」として、資本主義制度を継続し「高度な自治」が認められることになった。憲法に当たる香港基本法では言論・報道・出版の自由、集会・結社・デモの自由が規定された。
 しかし、中国は一国二制度の形骸化を進めた。2003年、香港政府の国家安全条例草案に対し、50万人が反対デモを行い廃案に追い込んだ。14年には香港政府トップの行政長官選挙で立候補者を制限しない制度を求めて「雨傘運動」の大規模デモが続いた。しかし、中国は妥協しなかった。
 19年には、香港市民を中国へ引き渡すことが可能になるとして逃亡犯条例改正に反対する大規模デモが起こり、断念に追い込まれた。そして20年、国安法を、中国の全国人民代表大会(全人代)で決定した。国安法違反で民主派メディアは活動停止に追いやられ、民主派の政治家や活動家が逮捕された。さらに当局が認定する「愛国者」以外は議員に立候補できない制度になり、香港の民主主義は息の根を止められた状態になった。
 沖縄県民にとって香港の問題は人ごとではない。米国の施政権下で人権を制限された歴史があるからだ。また、中国との長い歴史的なつながりがあり、中国が統一を目指す台湾と隣接している。そして、中国と米国の対立が深まり、中国の軍事活動の活発化で中国脅威論が高まる中で、沖縄で日米による軍備強化が進んでいる。沖縄戦の再来を本気で心配しなければならない事態が到来しつつある。
 日本は、米国に従って中国に対峙(たいじ)しようとしている。50年前の日本復帰記念式典で屋良朝苗知事が「(沖縄が日米の)手段として利用されてきたことを排除」すると宣言したことを思い起こしたい。中国に対し批判すべきは批判しながら対話を重ねていくという、知恵と努力が必要だ。