<社説>SACO見舞金認めず 国は救済制度に実効性を


社会
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 公務外の米兵2人によるタクシー強盗致傷事件で、被害者の家族が遅延損害賠償金約2500万円の支払いなどを国に求めた訴訟の判決について那覇地裁は訴えを退ける判決を下した。米側が支払った見舞金が裁判所で確定した賠償額に満たなければ、日本政府が差額を穴埋めする「SACO見舞金」の支給の是非が争点となったが、支給を認めなかった。

 SACO見舞金は「国と被害者との間で締結された見舞金の贈与契約」であり、訴訟の対象にならないと判断した。原告側は被害者救済のための制度の本質を理解していないと批判した。
 判決は形式的判断にすぎず、根本的問題は「救済制度」の欠陥にある。国は基地の提供義務は負っても被害者への見舞金支払い義務は負わないというのは無責任だ。住民軽視と言わざるを得ない。これからも事件事故は起こり得る。そもそもの原因である基地をすぐに撤去できないのなら、基地絡みの被害を十分補償できるよう実効性ある制度に改め、国の責任で救済するのが筋だ。
 事件は2008年に沖縄市で発生した。米海兵隊伍長と1等兵の少年が、現金を奪おうとタクシー運転手の男性を酒瓶で殴るなどの暴行を加え、頭部裂傷や頸椎(けいつい)捻挫などの重傷を負わせた。2人は強盗致傷容疑で逮捕、起訴され、共に実刑判決を受けた。男性はPTSD(心的外傷後ストレス障害)など後遺症に苦しみ、補償が果たされないまま、12年に病気で亡くなった。
 遺族は加害米兵2人に損害賠償を求めて提訴し、那覇地裁は18年、遅延損害金を含めた約2642万円の支払いを命じる判決を言い渡した。判決確定後、遺族はSACO見舞金の支給を求めたが、沖縄防衛局は遅延損害金の支払いを拒み、受諾書を出すよう要求。受諾書には「今後いかなる申し立てもしないことを約束する」などと書かれていたため遺族側は提出を拒否した。
 国は加害者本人の責任であり、被害救済とは別だとして遅延損害金の分の支払いを拒んだため遺族側は提訴に至った。国は見舞金制度について国の裁量により救済を必要と認めて支給する制度であり、被害者に法的権利を保障するものではないと主張する。
 補償するかどうかをその都度決める姿勢だが、その線引きは不明確だ。不平等を生じかねない。また、国が賠償額を穴埋めするのは、損害賠償請求訴訟で確定判決を得ていることが条件である。時間がかかり必然的に遅延損害金が発生するが、賠償金の支払いは遅延損害金を求めないことを条件としている。
 非常に不合理な「救済制度」と言える。事件から14年たっても、遺族は米軍から146万円を受け取ったにすぎない。あまりにも理不尽だ。国は、欠陥だらけの制度を早急に改善し、実効性ある救済につなげるべきだ。