<社説>2022年版防衛白書 台湾有事をあおるな


社会
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 防衛省は2022年版防衛白書を公表した。台湾情勢の記述を昨年から倍増し、新たに与那国町の陸上自衛隊与那国駐屯地に関連し「与那国と台湾」という解説を追加した。

 ロシアによるウクライナ侵攻や台湾有事を引き合いに、国民の不安をあおりながら一気に、防衛力強化と防衛費の大幅増を既成事実化することは許されない。
 中国による台湾侵攻を巡っては、昨年3月に当時のデービッドソン米インド太平洋軍司令官が、6年以内に起きる可能性があるとの認識を示した。そこでにわかに、台湾有事論が広がった。
 麻生太郎副総理は昨年7月、中国が台湾に侵攻した場合、集団的自衛権行使を可能とする安保法の「存立危機事態」として対処すべきだとの見解を示した。さらに「(台湾有事の)次は沖縄。そういうことを真剣に考えないといけない」と強調した。
 安倍晋三元首相も昨年12月、「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と発言し波紋を広げた。台湾と隣接し、広大な米軍基地があり、自衛隊基地が増強されている沖縄が戦場になることを想定するものであり、軍事力で他国を威嚇するあおり行為だ。沖縄県民として、このような無責任な言動は受け入れられない。
 台湾が「一つの中国」にとどまり、独立を主張しない限り中国は武力行使はしない、という専門家の見方がある。バイデン米大統領も今年5月の日米首脳会談後の共同記者会見で、台湾政策に変更はなく「一つの中国」政策は維持すると繰り返した。漠然とした中国脅威論ではなく、冷静な分析が必要である。
 防衛費について白書は、国民1人当たり換算額の対比表を新たに記載した。韓国や英国、フランスなどは日本の2~3倍だと説明した。北大西洋条約機構(NATO)加盟国が対国内総生産(GDP)比2%以上の国防支出に合意する中、日本は21年度0.95%だとして、先進7カ国(G7)などと比べ「最も低い」とした。しかし、この説明はおかしい。
 防衛費1%枠を現政権は既に超えている。22年度は当初予算で過去最大の5兆4千億円が計上された。昨年11月の補正予算は7738億円で、計6兆円を超えた。GDP比では1.09%だ。諸外国の沿岸警備隊に当たる海上保安庁などの費用を加えたNATO方式では、日本の防衛費はGDP比1.24%に達する。NATOと同じ基準を使わず、日本の低水準を際立たせるような印象操作である。
 印象操作は数字だけではない。従来「思いやり予算」と呼ばれてきた在日米軍駐留経費負担の項目には、通称「同盟強靱化予算」を新たに併記。敵基地攻撃能力は「反撃能力」と言い換えた。姑息なやり方で安全保障政策の転換を既成事実化することは、国の方向を誤らせる。