<社説>秋葉原事件死刑執行 制度存廃 真剣に議論を


社会
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 7人が死亡、10人が重軽傷を負った2008年の東京・秋葉原無差別殺傷事件を起こした39歳の死刑囚の刑が執行された。岸田政権で7カ月ぶり2度目である。今回も、国内外から批判声明が出された。死刑制度に固執する日本は孤立しつつある。いったん執行を停止し、制度の存廃について真剣な国民的議論を行うべき時だ。

 今回の執行を受けて欧州連合(EU)の駐日代表部をはじめヨーロッパ各国の駐日大使が、執行停止を求める声明を発表した。「(死刑は)世界人権宣言にうたわれている不可侵である生命権を侵害するものであり、残酷で非人道的かつ屈辱的な刑の最たるもの」だと強調し、犯罪の抑止力として機能せず、誤審があった場合に取り返しがつかないと指摘した。
 現在、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中、死刑制度があるのは日本、米国、韓国だけだ。韓国は20年以上、執行していない事実上の停止国で、米国も執行は一部の州のみだ。国家として統一して執行を続けているのは日本だけとなっている。
 執行発表の記者会見で古川禎久法相は「(死刑制度は)国民の多数がやむを得ないと考えている」と述べた。確かに、内閣府が5年ごとに実施している世論調査では、最新の19年は「死刑もやむを得ない」が80・8%だった。容認の理由(複数回答)は「廃止すれば被害者や家族の気持ちが収まらない」が最多の56・6%、「凶悪犯罪は命をもって償うべきだ」53・6%と続いた。世論の背景には、被害者への配慮、死刑の実態についての情報の不足などがあると指摘されている。
 抑止力についても立証されていない。凶悪犯罪の件数は減少傾向にあり、一方で「死刑になりたい」と事件を起こす例や、無関係の人を巻き込む「拡大自殺」と言われる事件が続発している。
 日弁連は、16年に「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を出した。その中で「遺族が厳罰を望むことは、ごく自然なことである」とした上で、被害者・遺族の支援とともに、罪を犯した人の人間性回復の努力は両立させる必要があると主張している。それが犯罪のない社会につながるという立場だ。
 さらに、廃止した国々でも死刑支持が多数だったとして「世論だけで決めるべき問題ではない」と指摘した。また、死刑の代替として「仮釈放の可能性のない終身刑制度」や、無期刑の仮釈放の開始時期を現行の10年から20年等に延ばす「重無期刑制度」を提案した。
 18年に設立された「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」には、存続派を含め与野党から約40人が参加している。死刑に関する情報を積極的に開示して国民的な議論を起こすとともに、国会でも真剣な議論をしてもらいたい。