<社説>最低賃金中央審答申 賃上げ伴う経済好循環を


社会
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 厚生労働相の諮問機関「中央最低賃金審議会」は、2022年度の最低賃金について全国平均31円引き上げ全国平均961円を目安額とする答申を決めた。ロシアのウクライナ侵攻や円安の影響に伴う急激な物価高を重視した。

 最低賃金は人を雇う際の一般的な金額ではなく、憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するセーフティーネットである。新型コロナウイルス拡大による経済の落ち込みも加わって、深刻な経済情勢が続く中、過去最大の上げ幅となったことは一定の評価をしたい。
 しかし物価は急激に上昇しても賃金が上がらない構造的問題は改善していない。官民が協力し合いながら、市場の力を効率的に使い、持続的な賃上げが伴う経済好循環をつくっていく必要がある。今回の賃上げはその一助となってほしいが、まだ課題山積だ。
 日本の労働者の所得水準は、先進国の平均値より低い。経済協力開発機構(OECD)加盟国中22位で、1位の米国の6割に満たない。最低賃金を含む全体の賃上げが大きな課題となっている。
 中央審では物価高の評価が焦点となった。直近の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は3カ月連続で2%超上昇し、生計費が家計を圧迫している窮状が浮き彫りになった。また、厚生労働省は従業員30人未満の企業の賃金上昇率が1・5%と、24年ぶりの高水準だったと明かし、最大増額幅とする流れとなった。
 物価上昇を懸念する労働者側に対し、企業側も「去年とは状況が変わってきた」との認識で、2年連続据え置きを訴えてきた姿勢を一転、一定の増額を容認する構えだった。
 ただ、資源・原材料の高騰を価格転嫁しにくい中小零細企業もあり、そのような企業にとって賃金上昇は厳しさを増すばかりだ。
 政府は賃上げ政策に力を入れ、賃上げを実現した企業には最大40%の税控除を打ち出している。しかし原料高などコスト面で収益を圧迫された中小企業に賃上げの余裕があるか、不透明だ。しかも2年間の時限立法であり、将来も人件費を負担する企業にとって魅力的な制度かどうかを実態に照らして検証する必要がある。特に中小零細企業に対して、賃上げにつながるきめ細かな支援を実行してほしい。
 一方の企業側には、物価を上げるに伴い、労働者への賃上げも担保することが求められる。人材に対して積極的に投資し、社員の生産性を長期にわたって高めることも重要だろう。このような経済合理性に基づく賃金アップにも取り組まねばならない。
 今回の最低賃金引き上げで沖縄は30円の引き上げ目安通りなら850円となる。ただ県民所得全国最低水準で、産業の柱である観光はコロナ禍で非常に厳しい。非正規雇用の割合も全国で最も高い。こうした地域事情を踏まえた企業努力と政策が必要だ。