<社説>制服組が予算査定 原則をなし崩しにするな


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 防衛省の2023年度予算要求の取りまとめで、自衛官の制服組が中心の統合幕僚監部(統幕)が査定側に加わった。政治が軍事に優越する文民統制(シビリアンコントロール)の原則が骨抜きにされる懸念がある。経緯を明らかにするべきだ。

 従来は背広組の官僚(文官)が中心の内部部局(内局)が陸海空自衛隊などから要望を聞き取り、必要性や適正さをチェックして防衛省全体の予算要求を立ててきた。
 23年度予算の装備品調達関連の作業に統幕担当者が査定側として入ったという。査定を受けてきた側が査定する側に回った。チェック機能の低下が懸念されるのは当然だ。
 統幕は06年に陸海空自衛隊を一元管理するため発足。陸海空の幕僚監部が部隊の教育・訓練を担うのに対して、統幕は周辺の警戒監視など、実際の部隊運用を担う。
 装備品などを用いる立場だ。予算要求の査定に加わることは、現場の恣意(しい)的な思惑が反映されることを排除できなくなるのではないか。
 統幕の発足後も文民統制の観点から部隊運用は背広組と制服組が分担してきたが、15年には統幕に一元化された。そして今回の予算査定への関与である。
 背広組の監視が弱まり、制服組の発言力、権限が強まれば、文民が大臣を務めていても正しい判断ができなくなるのではないか。
 岸田文雄首相は防衛費について増額を表明した。焦点の23年度の防衛費は過去最高の5・5兆円台で、最終的には6兆円規模に膨らむ可能性がある。
 防衛力の5年以内の抜本強化をうたう政府方針の下、防衛費の概算要求では新型装備などの金額を示さない「事項要求」が多数盛り込まれるからだ。
 一方で、防衛費の透明性には疑問符が付く。対中戦力として主力とはなりえない陸自予算など、膨大な無駄も指摘されている。査定への関与はこの点からも容認できない。
 軍部が予算を握ればどうなるか。かつて、日中戦争からアジア・太平洋戦争まで一会計年度とした特別会計の臨時軍事費があった。一橋大の吉田裕名誉教授によると、機密を理由に議会や政治のコントロールも完全には及ばない予算で、かなりの部分が転用され、対ソビエトや対米軍備の充実に充てられた。この予算を得られることは、対米開戦を軍部が決意した理由の一つでもあったという。
 軍部の暴走を止められず、多大な犠牲を払った日本が得た教訓の一つが文民統制である。戦争への反省を基にした権力統制の原則だ。
 軍備増強と相まって、制服組の権限の強化は、周辺にいらぬ緊張を高めることにつながらないか。国民の安全に関する問題だ。なし崩しで原則を逸脱してはならない。統幕の査定参加の経緯を含め、情報を開示し、説明すべきだ。