<社説>県、辺野古設計変更提訴 司法は実質審理すべきだ


社会
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 名護市辺野古の新基地建設を巡り、県は、沖縄防衛局が申請した設計変更を「不承認」とした県の処分を取り消した国の裁決は違法だとして、裁決の取り消しを求める訴訟を福岡高裁那覇支部に起こした。

 総務省の第三者機関・国地方係争処理委員会が県の不服審査申し出を却下したため県は、国土交通相による裁決の適法性への司法判断を仰ぐ。
 辺野古新基地を巡る国と県の裁判は10回目だが、最近は中身を審理しない「門前払い」が目立つ。県の主張は民主主義の手続きや地方自治を問う内容であり、沖縄だけの問題ではない。司法は県の提起に真摯(しんし)に向き合い、実質審理に踏み込むべきだ。
 県が今回、新たに提訴したのは、軟弱地盤の改良工事に伴う防衛省の設計変更申請を不承認とした県の処分の効力を取り戻すためだ。過去9回の訴訟は主に翁長県政時代は「埋め立て承認取り消し」、玉城県政以降は「埋め立て承認撤回」を巡り争われた。今回の設計変更不承認を巡る訴訟は、県にとって新たな挑戦と位置付けられる。県は昨年11月、軟弱地盤の調査が不十分などとして不承認とした。
 沖縄防衛局は行政不服審査制度を使って審査請求し、国交相は今年4月、不承認を取り消す裁決をした。防衛局のやり方には行政法学者らから批判がある。一般私人にはなり得ない防衛局が、本来は国民の権利利益を救済するための制度を乱用した「私人なりすまし」だとの指摘だ。また防衛局の請求を受けて審査するのは身内の国交相である。裁決の際に公平な判断ができるはずがない。裁判をせずに国が県の判断を覆せるため、国と県の対等な関係を定めた地方自治の観点からも問題だ。
 県が埋め立て承認を撤回した際も、防衛局は行政不服審査制度を使い、国交相が承認撤回を取り消す裁決をした。裁決の適法性を問うた訴訟の控訴審判決では、福岡高裁那覇支部は、県に原告の資格はないとして訴えを棄却した一審判決を支持し、裁決取り消しを求めた県の控訴を棄却した。国交相の裁決の妥当性に対する判断も示さなかった。
 防衛局の「私人なりすまし」の適法性について最高裁は国の主張を容認した。しかし本多滝夫龍谷大教授(行政法)は「今回は埋め立て承認がある中で防衛局が設計変更申請をしており、争いの局面が違う。最高裁判決の射程外だと争う余地はある」と指摘する。
 過去に農林水産相が県にサンゴの移植を許可するよう指示したのは違法だとして県が取り消しを求めた訴訟で、最高裁の裁判官5人のうち2人が県側の主張を認めた。軟弱地盤の存在が影響した。
 司法が埋め立て事業の中身をしっかり審理すれば、問題が明確になり、国の強引な手法を正すことにつながるはずだ。この国の自治や民主主義の在り方に禍根を残さないためにも、中身に踏み込んだ上での健全な判断を求める。