<社説>ザポロジエ原発危機 国際社会は大惨事回避を


社会
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 ウクライナ南部でロシアが占拠する欧州最大のザポロジエ原発に攻撃が相次いでいる。原子炉1基が緊急停止する事態もあり、チェルノブイリ事故を上回る大惨事がいつ起きてもおかしくない異常事態だ。国際社会は全力を挙げて大惨事を回避しなければならない。

 ロシア、ウクライナとも、相手が攻撃をしていると非難している。まず、双方に攻撃をしないと宣言させるべきだ。そして、国際原子力機関(IAEA)の調査を一刻も早く実現しなければならない。さらに、ロシアに撤退させ、周辺を国際管理下に置き非武装地帯にすべきだ。原発攻撃を禁止するルールづくりも急ぐ必要がある。
 ロシアは3月4日にザポロジエ原発を攻撃して世界を震撼(しんかん)させた。現在、約500人のロシア兵の管理下でウクライナ国営企業が運転を続けているという。戦争状態の中、敵兵の監視下での原発運転は危険極まりない。
 同原発の原子炉は飛行機の衝突にも耐えられる設計とされる。しかし、原子炉や核燃料保管設備を冷却する電源が失われれば福島第1原発と同様の重大事故につながりかねない。放射性物質がドニエプル河を通って黒海や地中海を汚染することも懸念される。
 今回の攻撃は広島、長崎で被爆者を追悼し核廃絶を誓う式のさなかに始まった。8日に東京で記者会見した国連のグテレス事務総長は「自殺行為」だと非難し、18日のウクライナのゼレンスキー大統領、トルコのエルドアン大統領との3者会談後の会見でも「自殺行為」と繰り返した。
 そもそも原発への攻撃は、戦時下の文民保護を定めたジュネーブ条約で禁じられている。現在攻撃しているのがどちらであっても、ロシアが軍事的に占拠していること自体が国際法違反なのである。
 ウクライナ側から、ロシア軍を撤退させ、国連の平和維持部隊を派遣して非武装地帯を設置するよう求める声も出ている。しかし、ロシアは簡単に認めないだろう。
 核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書の素案に、ロシアを名指しして撤退を求め「ウクライナ当局による管理復活」が盛り込まれた。ロシアは原発を巡る表現自体を「受け入れられない」としており、困難な交渉となることは避けられない。
 国連とIAEAは、まず双方に原発を攻撃しないと宣言させるべきだ。そして一日も早く立ち入り調査のルートについて合意し、原発の状況を把握しなければならない。そして周辺を非武装地帯にする方策を見いだしてほしい。
 福島第1原発事故で国土の半分を失うかもしれないという恐怖を味わった日本には、外交の場でもっとできることがあるはずだ。NPT会議などの場で、核施設を軍事目標とすることの禁止や、周辺を非武装地帯化する国際ルールを提唱することも求めたい。