<社説>エネルギー政策転換 原発回帰は許されない


社会
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 11年前の東京電力福島第1原発事故の教訓を忘れてしまったのか。

 政府は将来的な電力の安定供給に向けて次世代型原発の建設を検討する方針を公表した。原発の新増設やリプレース(建て替え)は想定しないとした従来のエネルギー政策の基本方針の転換となる。
 ロシアのウクライナ侵攻は原発が標的にされる危険性を改めて見せつけた。福島原発事故は今も収束せず、汚染水問題も持ち上がっている中で、原発回帰という選択肢はあり得ない。何より今回の政策決定過程が不透明だ。
 2010年策定の「エネルギー基本計画」は原発の新設、増設を行う方針を明示した。しかし、11年の福島第1原発事故を受け、当時の民主党政権が一部を除き新増設を認めない方針に転換した。安全性に対する国民の懸念から、自民党が与党になってからも新増設や建て替えの方針は盛り込まれていなかったはずだ。
 岸田文雄首相は省庁横断のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、「エネルギー危機克服と脱炭素を両立しないといけない」と述べ原発の活用を訴えた。しかし、エネルギー基本計画の有識者会議の場ではなく、原発を推進する産業界が加わるこの会議で一転して方針転換するやり方は、唐突であり決定過程に問題がある。
 次世代型原発は早期に設計にとりかかっても運転開始は30年代半ばだという。首相が「エネルギー危機克服と脱炭素を両立」と言うのであれば、再生可能エネルギーの拡大こそ最優先すべきだ。
 そもそも原発は、燃料の製造、使用済み燃料の処理・保管、廃炉に至るまで常に危険が伴う。原発は、核兵器の材料であり猛毒であるプルトニウムの製造装置でもある。
 原発の建設費は数千億円に上ると言われる。電力自由化で競争が激しくなる中で、原発が数十年間、安定的に稼働し、電気料金で建設費を回収できる見通しが立ちにくくなっている。世界全体の再生エネルギーによる発電量は19年、初めて原発を上回ったという報告がある。発電コストも原発の1キロワット時当たり15・5セント(約16円)に対し、太陽光や風力は4セント程度とはるかに安い。原発事故による人身被害、その後の廃炉や除染などに要する年月とコストを考えれば、これ以上原発に依存する選択はないだろう。
 福島第1原発事故を巡る株主代表訴訟で、東京地裁は今年7月、旧経営陣4人に計13兆円余りの支払いを命じた。安全対策を怠った当時の経営トップの責任を司法として初めて認めた。原発は安全でも低コストでもないことを司法が認めたことを意味する。原発の経営は、事業として破綻していると言っていい。
 福島原発事故は、国家が進めた原子力政策の誤りを象徴している。電力不足を名目にして、原発に回帰することは許されない。