<社説>ゴルバチョフ氏死去 平和共存の理念 継承を


社会
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 東西冷戦を終結に導き、核戦争の危機を遠ざけたミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領が死去した。

 西側との相互共存を目指したゴルバチョフ氏の「新思考外交」が危機に瀕(ひん)している。後継国家ロシアのプーチン大統領のウクライナ侵攻によって、欧米との間で相互不信が広がり「新冷戦」と言われる事態に直面しているからだ。
 新冷戦が東アジアに広がれば、米軍基地が集中する沖縄が紛争に巻き込まれる危険が高まる。ゴルバチョフ氏は「人間の安全保障」の理念を世界に発信する拠点として沖縄を捉えていた。時計の針を後戻りさせてはならない。今こそゴルバチョフ氏の平和共存の理念を継承する時だ。
 ゴルバチョフ氏が提唱したペレストロイカ(改革)は、新思考外交とグラスノスチ(情報公開)から始まったといわれる。
 このうち、西側との平和共存を目指す新思考外交は、核軍縮を重視した。1987年12月、レーガン米大統領と中距離核戦力(INF)廃棄条約に調印した。史上初の核軍縮条約だった。91年までに両国は計2692基を廃棄した。そして89年12月にマルタでブッシュ(父)米大統領と「東西冷戦の終結」を宣言し、ベルリンの壁崩壊とドイツ統一に道を開いた。まさに「卓越した構想の持ち主」(バイデン米大統領)といえる。
 だが、32年後の2019年にINF廃棄条約が失効し核軍拡が再燃している。特に懸念されるのが東アジアである。米国は軍備を増強する中国に対抗して、沖縄からフィリピンを結ぶ「第1列島線」に中距離弾道ミサイルを配備するための予算を計上するなど配備計画を進める姿勢だ。
 そしてウクライナ侵攻によって新冷戦が本格化した。ゴルバチョフ氏が総裁を務める「ゴルバチョフ財団」はウクライナ侵攻に対し、「相互の尊重と、双方の利益の考慮に基づいた交渉と対話のみが、最も深刻な対立や問題を解決できる唯一の方法だ」との声明を発表した。氏の理念がにじみ出ている。
 05年に3度目の来沖を果たした。18年1月に沖縄に発したメッセージは「沖縄は軍事基地の島ではなく、沖縄の人々の島であり続けなければならない」という内容だ。今年2月に琉球新報にメッセージを寄せ、沖縄でフォーラムを開催して「人間の安全保障」の理念を世界に発信するよう求めた。
 沖縄戦を経験し過重な基地の負担に苦しんでいる沖縄は「軍事力では平和は実現しない」ことを知っている。基地のある場所が戦場になり、軍隊は住民を守らない、という沖縄戦の教訓が「命どぅ宝」の思想として受け継がれ、県民は人間の安全保障を要求してきた。ゴルバチョフ氏のメッセージと一致する。
 冷戦を終結させた壮大な構想力の持ち主からの「遺言」と受け止めたい。