<社説>首相の「国葬」説明 内閣葬ではいけないのか


社会
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 なぜそこまで「国葬」にこだわるのか。

 安倍晋三元首相の国葬を巡り衆参両院の議院運営委員会が開かれた。岸田文雄首相は、国葬は内閣府設置法などを根拠に実施できるとして「行政権の範囲内だ」と述べ、法的正当性を主張した。
 首相の説明は牽強付会であり、過去の政府見解に照らしても納得できる内容ではなかった。例えば朝日新聞は、過去の佐藤栄作元首相が死去した際に、当時の内閣法制局長官が国葬について「法制度がない」「三権の了承が必要」との見解を示していたことを報じている。
 国葬とは、国費を投じて国民に追悼を求めるものにほかならない。戦前は国葬の実施や対象者を定めた勅令の「国葬令」が法的根拠になっていたが、戦後、言論・表現の自由、内心の自由(19条)、政教分離(20条)を定めた現行憲法の制定に伴って失効した。繰り返し主張するが、憲法に抵触しかねない国葬には反対である。百歩譲っても内閣と自民党の合同葬など従来の葬儀の形式が妥当だろう。
 首相は、国葬に関し、国の儀式を所掌するとした内閣府設置法と閣議決定が根拠だと重ねて説明した。国葬に関する個別の法整備は不要だとして「国葬は行政上の行為であり、国民の権利を制限したり義務を課したりするものではない」と理由を述べた。
 しかし、内閣府設置法を根拠にするのも無理がある。税金を投入するにもかかわらず国会にも諮らず閣議だけで決めるという手法は公正公平性は担保できない。
 例外として1967年に吉田茂元首相の国葬が実施された。吉田氏国葬の1年後の68年5月、水田三喜男蔵相は国会で「国葬儀につきましては、御承知のように法令の根拠はございません」と明言している。佐藤氏の死去時にも国葬にすべきだという意見が出ていたというが、結局、国葬とはせず国民葬にした。
 法的根拠がないのになぜ安倍氏を特別扱いするのか。岸田首相は国葬の理由として憲政史上最長の在任期間や外国から相次いで弔意が寄せられていることを挙げている。だが、安倍氏の功績には賛否があり、内閣から独立した第三者機関による客観的な理由があるわけでもない。
 岸田首相は社会的に問題がある世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍氏との関係には口をつぐんでいる。自民党は8日、衆参両院議長を除く党所属国会議員379人中179人に、何らかの接点が確認されたとする調査結果を明らかにした。安倍氏と教団側の接点は今回の調査には含まれていない。安倍氏との関係が曖昧なまま国葬なのか。
 沖縄から見れば民意を無視して名護市辺野古の新基地建設を強行したのも安倍氏だ。
 明確な基準もなく「行政上の行為」と強弁して実施する国葬には、国民の理解は得られないだろう。