<社説>5氏に琉球新報賞 さらなる発展へ礎築いた


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄が日本に復帰して半世紀の節目を刻んだ今年は、激動を乗り越えた先達の足跡に改めて思いを来す機会となっている。郷土の発展に情熱を注いだ人々の存在がなければ、今日の沖縄の繁栄はなしえなかった。

 その歩みに新たな功績が刻まれる。第58回琉球新報賞はきょう、5氏を顕彰する。沖縄振興功労を嘉数知賢氏と渡久地政弘氏、経済・産業功労を上地哲誠氏、社会・教育功労を山内彰氏、文化・芸術功労を中村一雄氏に贈る。
 嘉数氏は衆院議員を4期務め、内閣府副大臣など国政の場で県民生活の向上に尽力した。特に地元の北部振興に強い思いを寄せた。県議会議長時代の1995年には、米兵による少女乱暴事件に抗議する県民総決起大会の実行委員長を務めた。「ウチナーンチュのためになることは何でもやった」。党派を超えた結集は米軍基地の過重負担を全国に訴えるうねりとなった。
 元連合沖縄会長の渡久地氏は長年にわたって労働運動に取り組み、厳しい雇用環境に置かれる沖縄の労働者の権利向上を前進させた。平和構築に果たした役割も見逃せない。「他律的に決められてきた歴史はもうやめよう」と、米軍基地の整理縮小を問う96年の県民投票を主導。復帰後の新たな大衆運動として提起した「5・15平和行進」は現在まで続いている。
 27年にわたり県内小売最大手サンエーの社長を務めた上地氏は、卓越した経営手腕で離島県の物流ハンディを克服し、全国屈指の成長を導いた。創業者の故折田喜作氏に経営のイロハを学び、大型店舗開発や新業態進出、東証一部上場など飛躍期を成し遂げた。「善の発想」を理念とする人格者でもあり、「人財こそ我が社最大の強み」と社員への感謝を忘れない。
 沖縄女子短期大学理事長の山内氏は県教育長などを歴任し、教育行政の現場で陣頭指揮を執ってきた。県立高校推薦入学制度の導入や県立中学設立など、平成期の変革に合わせた制度づくりに奔走した。「子どもの個性や地域の特色を視点に進めてきた」と語り、子どもの自主性を重視するまなざしを貫いてきた。衰えない情熱は、今も多くの教育者に影響を与えている。
 中村氏は、2019年の国指定重要無形文化財保持者(人間国宝)認定が記憶に新しい。野村流三線演奏家の故野村義雄さんに師事し、本格的に琉球古典音楽の道に入ったのは社会人になってからだった。銀行員と芸能活動の二足のわらじをはきながら歌三線の精進を重ね、「国宝」の極みにまで芸を高めた。「人との出会いが良いように回ってくれた」と振り返る。
 いずれの受賞者も、復帰後の激変期に全国との格差是正や県民の暮らしの向上に尽力した。後進の育成などでも指導力を発揮し、さらなる発展への礎を築いてくれた。その貢献に深く敬意を表したい。