<社説>ペーボ氏にノーベル賞 OISTの成果を沖縄に


社会
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 2022年のノーベル医学生理学賞は、ドイツ・マックスプランク進化人類学研究所教授で沖縄科学技術大学院大(OIST)客員教授のスバンテ・ペーボ教授に決まった。

 困難と考えられていた数万年前の古い人類のDNA解析に成功し「古ゲノム学」という新しい学問分野を生み出した。研究の成果としてネアンデルタール人と現生人類の祖先が混血していたことを突き止めた。
 ペーボ氏は沖縄を絡めた研究に意欲を示しており、さらなる成果に期待したい。
 OIST在籍中の研究者のノーベル賞受賞は初めてであり、OISTが最高水準の研究機関であることを証明した。世界の科学への貢献だけでなく、最先端の知見を活用して沖縄の経済振興や人材育成にも貢献してもらいたい。
 ペーボ氏の業績は、絶滅した人類の遺伝子が、現生人類に生理学的に影響を与えていることを明らかにした。
 例えば、デニソワ人由来の遺伝子は標高の高い場所での生存に有利に働く。OIST着任後の研究で、ネアンデルタール人から受け継いだ遺伝情報が、新型コロナウイルス感染症の重症化を抑える効果があることを突き止めた。
 一方、OISTは沖縄振興の一環として11年に創立した。教員と学生の半数以上が外国人だ。他の国内大学と比べて潤沢な運営費の交付があったことで、世界的な研究者を引きつけ、高い研究パフォーマンスを示してきた。世界有数の学術出版社シュプリンガー・ネイチャーの「質の高い論文ランキング」(19年版)は世界9位。東大、京大を抑え国内1位だった。
 ペーボ氏はノーベル賞決定を受けた会見で「沖縄や日本の人たちに関する今後の研究で(絶滅した人類の)デニソワ人との関係など、欧州にない側面を究明したい」と意欲を見せた。今後の研究成果に期待したい。
 ところでOISTは、文部科学省ではなく沖縄振興策として内閣府が所管し、沖縄振興予算の一部が拠出されている。沖縄振興の課題である新たな産業の創出・育成、全国最下位の1人当たり県民所得の改善などへ貢献しているのかどうか疑問の声も聞かれる。22年度の沖縄関係予算の総額は前年度比約330億円減の約2680億円と過去にない減少幅となった。沖縄関係予算が減額される中で、OIST関連経費193億円が計上されている。
 OISTのピーター・グルース学長は琉球新報のインタビューに応じ、研究で生まれた知的財産をスタートアップ(起業)に生かす構想の概要を明らかにしている。新技術から起業され、産業となり雇用創出につながるという内容だ。実現すると3千~4千人の雇用を生み、県民所得を是正できるという。
 ぜひとも研究成果を、沖縄が抱える課題の解決に生かしてもらいたい。