<社説>原発最長60年削除へ 福島の反省忘れたのか


社会
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 原子力規制委員会の役割放棄ではないのか。

 原発推進を打ち出した岸田文雄首相の方針に伴い、原発の運転期間の延長について独立した強い権限を持つはずの規制委は、原則40年、最長60年とするルールが原子炉等規制法から削除されることを容認した。
 「40年ルール」は東京電力福島第1原発事故を踏まえて、与野党合意の上、原子炉等規制法を改正して定めた。劣化が進む老朽原発の運転を制限し、事故リスクを下げるためだった。本来ならお目付役になるはずの規制委が、政府の方針を追認し、法の縛りを安易に緩めることは許されない。
 現行ルールは一定の科学的根拠に基づいている。原発を長期間運転すると、放射線によって原子炉圧力容器がもろくなるため、40年がめどとされていた。最長で20年延長はあくまで例外であるはずだ。世界的にも原発の運転期間は平均で三十数年とされる。運転期間を延長すれば原発の安全性が損なわれ、不確実性が増すだろう。
 そもそも岸田首相は2020年の著書「岸田ビジョン」で「将来的には再生可能エネルギーを主力電源化し、原発依存度は下げていくべきだ」と記述していた。
 ところが、ロシアのウクライナ侵攻に伴う燃料価格高騰、電力逼迫(ひっぱく)という外的要因に乗じて持論を変更した。4月の記者会見で原発を最大限活用すると表明し、政府文書に明記した。6月の骨太方針では、昨年記載した「可能な限り依存度を低減」という文言を消した。そして8月に「既存原発の運転期間延長」を打ち出した。福島原発事故の教訓から何を学んだのか。
 本来なら規制委員は、政治に左右されず、安全確保に特化した判断を求められる。このため独立性の高い「三条委員会」となっている。利用推進側の求めに応じることが規制委の本来の役割ではないはずだ。
 世界に目を向ければ、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけにドイツと欧州連合(EU)は再生可能エネルギーの拡大と水素の実用化を加速化している。日本の原発回帰とは逆なのだ。
 例えば、ウクライナ侵攻前のドイツは30年までに発電量の80%を再エネでカバーし、残りを天然ガスで賄う方針だった。だが、ウクライナ侵攻後、35年までに電力消費量のほぼ100%を再エネでカバーするという新たな目標を打ち出した。
 世界は現在、「グリーン成長」へ向かっている。大規模な再生可能エネルギー開発や電気自動車(EV)の大量導入、デジタル技術を使って温室効果ガスの排出を減らしながら経済成長を続けようという考えだ。
 福島原発事故は国家が進めた原子力政策の誤りを象徴している。日本は原発回帰ではなく再生可能エネルギーの拡大に向かうべきだ。