<社説>PFAS血液検査 国の責務で実態調査を


社会
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 市民団体が県内6市町村で実施した有機フッ素化合物(PFAS)の血中濃度検査で、各地で全国調査を上回る高い値が検出された。基地に起因する環境汚染の影響が一層浮き彫りとなった。国の責任で県全体の疫学調査を実施することが急務だ。

 PFASによる水質汚染が米軍基地由来とされながら、米軍の拒否により基地内の立ち入り調査が実施できず、汚染源の特定・除去の壁になっている。飲み水の安全性を守れずに本当に主権国家なのかが問われている。米軍に排他的管理権を認めた日米地位協定の見直しが必要だ。
 PFASは環境中でほとんど分解されないため人や動物の体内に蓄積する。発がん性のほか、出生時の体重に影響が生じる恐れなど、健康への影響が議論されている。
 沖縄では主に米軍基地や自衛隊で使われていた泡消火剤に含まれ、訓練や流出などで地下水、土壌を汚染してきた可能性が指摘される。
 米軍嘉手納基地に近い河川や基地内の嘉手納井戸群を取水源の一つとしている北谷浄水場の水道水からPFASが検出され、県企業局は高機能粒状活性炭を設置して除去するなどの対策をとっている。2020年には、米軍キャンプ・ハンセン近くに水源を持つ金武町の水道水から国の暫定指針値を超えるPFASが検出された。
 住民の不安が高まる中で、市民団体の「PFAS汚染から市民の生命を守る連絡会」が6~7月に、米軍基地がある沖縄、宜野湾、金武、嘉手納、北谷の5市町と基地からの影響がないと想定される大宜味村で、希望する住民387人の血中濃度を検査した。
 PFOSは北谷町で1ミリリットル当たり12.2ナノグラムの最大値が検出され、全国平均の3.1倍だった。PFOAは金武町の6.7ナノグラムが最も高く全国平均の3倍、PFHxSも金武町の14.3ナノグラムが最大で全国平均の14.3倍だった。
 米ハーバード大医科大学院などの論文で、PFASの一種であるPFOSの血中濃度が高い人ほど死亡リスクが上がるという因果関係が示されている。血中濃度が「高グループ」はがんによる死亡リスクが「低グループ」と比べて1.75倍になり、心臓疾患による死亡リスクも1.65倍高かったという。
 日本では国や県による血中濃度の検査は実施されていない。行政による広範な調査を早急に実施することが求められる。同時に摂取経路を疫学的に追跡する調査など実態把握を進め、健康被害を低減させる有効な対策を講じることが必要になる。
 米国の分析は、国際的な規制が進んだことで暴露による死者数が低減したとも推計している。有効な規制や除去対策を取れば健康被害を低減できる。そのためにも県内の汚染経路の特定が不可欠だ。米軍基地内の立ち入り調査を実現しなければならない。