<社説>那覇市長に知念氏 市民の暮らし守る施策を


社会
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 任期満了に伴う那覇市長選は、自民・公明が推薦する知念覚氏が、オール沖縄勢力が推す翁長雄治氏を破り初当選した。市民は行政経験38年のベテランに県都のかじ取りを託した。知念氏には、選挙戦で訴えた経済活性化や子育てなど市民を第一に考えた施策を展開してもらいたい。

 「選挙イヤー」の今年、自公は名護、南城、石垣、沖縄、宜野湾、豊見城に続き7市長選を制した。オール沖縄勢力は参院選、知事選と全県選挙で勝利した。互いに一定の影響力を確保したといえる。
 当面は国政選挙の予定もない。政局に偏らずコロナ禍からの経済回復、名護市辺野古への新基地建設問題など山積する課題に対し、暮らしを守る政治の実行を期待したい。
 子育て支援に関して知念氏は待遇改善による保育士確保やクーポン発行を掲げた。子どもの居場所確保や親への経済支援は急務である。確実に実行してもらいたい。
 経済では基幹産業である観光の再生が待ったなしだ。知念氏は都市型MICEの誘致促進を掲げ、投資呼び込みを図るとした。企業の経営環境の強化へDX化(デジタル変革)を支援することも挙げた。
 一括交付金減額が続く中、官主導のソフト対策は限界が見えている。経済の足腰を強くするには民間活力の喚起が重要である。官民協働の経済活性化へ知念氏はこれまで培った手腕を発揮してほしい。
 両氏の政策が異なったのは辺野古新基地への対応だ。知念氏は県民投票の結果を受け入れた上で「国と県の係争を見守る」との立場で、反対を明確にした翁長氏と差があった。あえて争点にしなかった。
 ただ候補者が「辺野古容認」を明言した参院選、県知事選で自公は敗れている。各市長選は那覇と同様に経済や福祉が主要争点だった。那覇市長選の結果をもって辺野古容認の流れに傾いたとみるのは早計だ。国と県の法廷闘争は続いており、基地の過重負担に対する国民の異議は根強い。直近の世論調査(9月17、18日・共同通信)でも辺野古を「支持しない」が57%で過半数であることがその証しだ。
 今回の市長選は、翁長氏の父である雄志前知事が提唱した政治的枠組み「オール沖縄」の在り方に一石を投じた。
 この枠組みは雄志氏がイデオロギーよりアイデンティティーの重要性を喚起し、具体的政治課題として辺野古新基地建設反対を掲げて中道、一部保守、革新勢力を統合した。しかし雄志氏の後継である城間幹子市長が、辺野古の争点をぼかした知念氏を支持したことで、枠組みが揺らいでいることが明らかになった。オール沖縄勢が推す玉城県政を含めた再構築が課題となる。
 実務経験の豊富な知念氏に市民が託したのは、コロナで傷ついた経済や福祉といった暮らしの再構築である。党派性を超え、市民の尊厳を守るという原点を念頭に、知念氏には市政運営を望みたい。