<社説>与那国で戦闘車走行 住民脅かす訓練中止せよ


社会
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 防衛省と米軍は11月中旬に実施する日米共同統合演習で、陸上自衛隊の「16式機動戦闘車(MCV)」を与那国空港から陸自与那国駐屯地までの公道で走らせる訓練を計画していることが判明した。実施すれば、県内の公道でのMCV使用は初めてだ。

 中国との間で台湾や南西諸島を巡る有事が起きた際にMCVを素早く島々に搬入することを想定している。島々での地上戦を見越した作戦だ。
 そうなると住民は守れるのか。いざ戦闘が始まると避難用の航空機や船舶の安全確保は困難だ。住民保護計画がままならないのに戦闘を前提とした訓練ばかりが先走っている。中国を刺激し、与那国が中国による攻撃の標的にされる恐れを増し、住民の命や生活を脅かす。非常に危険だ。訓練は中止すべきだ。
 計画は、陸上自衛隊西部方面隊のMCVを福岡県の築城基地から与那国空港に輸送機で運び、与那国駐屯地まで公道で走らせる訓練だ。MCVは105ミリ砲を搭載し、高い走行性を持つ陸自最新鋭の装輪装甲車で、火力と機動力を兼ね備えている。
 自衛隊はこれまでもMCVを中城湾港まで船で運んで公道を走らせることを計画してきたが回避した経緯がある。今回の演習でもMCVを中城湾港へ搬入する計画があったが、取りやめた。沖縄戦の地上戦体験に基づく反基地感情を踏まえ、武器や装備が多くの県民の目に触れる影響を慎重に判断したとみられる。
 実際に自衛隊統合演習で石垣市の石垣港や与那国町の祖納港など民間港を使って県内の反発を招いた経緯もある。しかし今回の演習では、中城湾港では配慮したが与那国町では実施するのは与那国軽視で許されない。中城湾港と同様、搬入計画を中止すべきだ。
 MCVを与那国町の公道で走らせる訓練に対し県は住民生活への影響を懸念している。玉城デニー知事は「住民の方々が不安になることがないよう、調整はしっかりとやってほしい」と述べた。
 中国や台湾情勢への刺激により、既に県民生活を脅かす事態が起きている。8月にペロシ米下院議長が中国の反発を無視し台湾を訪問。中国は対抗措置として台湾周辺で大規模な軍事演習を実施し、日本の排他的経済水域(EEZ)内の波照間島や与那国島周辺にも弾道ミサイルを落下させた。漁業者は軍事演習の頻発で出漁制限に追い込まれた。
 今年は日本と中国が日中共同声明に調印し国交が正常化してから50年の節目である。声明に基づき結ばれた日中平和条約第1条は「全ての紛争を平和的手段により解決し、武力または武力による威嚇に訴えないことを確認する」とうたっている。日中両政府はこの精神に立ち返るべきだ。
 日本政府がやるべきことは、米国との合同演習を激化させることではなく、米中の緊張緩和に向けた対話を促す外交努力である。