<社説>安全保障に新研究機関 倫理と経済 双方に禍根

 政府は民間が持つ最先端技術の安全保障分野への転用を進めるため、2024年度にも防衛装備庁に新たな研究機関を創設する方針を固めた。

 科学を戦争に利用させないという戦後日本の歩みを変えるものだ。新研究機関創設には二つの問題が考えられる。一つは学問の自由が制限されないかという倫理上の問題。もう一つは軍事に偏った研究が優遇された場合、日本全体の科学技術や経済成長を阻害する可能性があることだ。
 新研究機関創設は日本の未来に禍根を残す方策であるといえる。政府に再考を促す。
 政府は2015年度、軍事技術へ応用可能な基礎研究に助成する安全保障技術研究推進制度を創設した。先の戦争の反省から1950年、67年に軍学分離の声明を発した日本学術会議は、2017年に二つの声明を継承すると改めて発表した。一方で人工知能(AI)やロボットなどの研究は応用分野が広がる。学術会議も今年7月には軍事と民生で両用できるデュアルユース技術は「単純に二分することは困難」との見解を示した。
 だからといって学術会議が軍事研究関与を容認したとはいえない。7月の見解では秘密保護といったリスク管理の重要性も指摘したからだ。
 新研究機関はプロジェクトマネジャーという立場の職員が助言や防衛産業との橋渡しを担うという。この案で懸念されるのは、当初から軍事利用を目的とした研究に誘導されないかということだ。
 軍事目的であれば秘密保持が優先される。科学の発展には適切な批判と検証が不可欠だ。また学問の自由は全ての権力から距離を置くことで保障される。政府の方向性に従い、批判や検証なき秘密研究に携わった場合、科学者の良心や自由が保たれるか。
 政府はインターネットなどの技術を生み出した米国の国防高等研究計画局をモデルにするという。だが目標と実態のかい離がないだろうか。防衛関連予算に対する財務省の分析によると「機微技術の情報保全が進む中、防衛用途の重要技術の民生移転は限定的でないか」と指摘している。
 さらに「防衛用途に特化した技術の展開は限定的かつ困難」「防衛分野への研究開発投資の増額による、国全体の科学技術底上げ、経済成長への貢献は限定的ではないか」とまで記している。
 軍需産業とそれに資する研究への投資は、近隣国の警戒を強めるだけだ。外交や人的交流を含めた総合的な安全保障の観点からも、政府は装備品開発、つまり軍備増強に頼る発想から脱するべきだ。
 文部科学省などがまとめた科学技術指標2022で、日本は論文などの指標で相対的に国際的地位が低下した。
 日本の科学技術発展を考えれば、軍事転用を目的とする研究は効率が悪い。現在の日本に必要なのは科学者が自由に創造性を発揮できる研究費や環境の確保である。



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