<社説>葉梨法相更迭 閣僚の適格性が問われる


社会
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 岸田文雄首相は葉梨康弘法相を事実上更迭した。遅すぎた判断で首相の任命責任は重い。葉梨法相は9日夜、東京都内の会合で「だいたい法相は朝、死刑(執行)のはんこを押す。昼のニュースのトップになるのはそういうときだけという地味な役職だ」と失言し野党が更迭を求めていた。

 先月、山際大志郎経済再生担当相が事実上更迭されたばかりで、岸田政権の閣僚の適格性が問われる。
 刑法や刑事訴訟法、刑事収容施設法などによると、死刑判決の確定後、検察は「死刑執行上申書」を法相に提出する。これを受けて法相が命令した場合、5日以内に執行しなければならない。
 死刑は国家が人命を奪うことであり、「はんこを押す」という行為は、重大な判断だ。葉梨氏の発言からは、法務行政の最高責任者としての自覚が感じられない。葉梨氏は9日だけでなく東京都内での3件の会合、地元での複数回の会合で同様の発言をしていたと説明し、「全て撤回する」と語った。
 世界的には死刑廃止が多数を占める。2014年に開催された国際連合総会で「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が、過去最高数である117カ国の賛成により採択された。国際人権保護団体アムネスティ・インターナショナルによると、21年時点で死刑廃止国は144カ国。死刑制度を維持しているのは日本、中国、米国(一部州)など55カ国だ。
 日弁連の小林元治会長はことし7月、「死刑は罪を犯した者の更生を目指さない唯一の刑罰。死刑制度廃止と、全ての死刑の執行停止を求める」との声明を出した。死刑制度の在り方を検討すべきだ。
 葉梨氏は元警察官僚だった。中立性が求められる法相には不適格ではないかとの指摘もある。重責を担う職務を軽視するかのような発言に刑事法の専門家だけでなく、死刑制度を肯定する立場からも非難の声が上がっている。
 はんこ発言にとどまらない。葉梨氏は「旧統一教会問題に抱き付かれてしまい、解決に取り組まなければならず、私の顔もいくらかテレビに出るようになった」とも語った。被害者を冒瀆するような発言であり、看過できない。
 岸田首相は先月、山際経済再生担当相の事実上の更迭へと踏み切ったばかりだ。8月の内閣改造以来、山際氏と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係が批判を受け続けてきたが、首相は一貫して更迭を否定。2カ月以上経過してからの対応は後手に回った。今回の葉梨氏の失言についても当初、更迭を否定したが与党内で法相交代論が強まり、首相は葉梨氏を更迭する方針を固めた。
 政権内には寺田稔総務相の「政治とカネ」を巡る問題が相次いで判明していて、野党が辞任を要求している。首相の任命責任と指導力が問われている。