<社説>防衛強化に法人税増 国民の理解得られるのか


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 防衛力強化に関する政府の有識者会議が、防衛費増額の財源の一つとして、法人税増税案を提言に盛り込む方向で調整に入った。

 法人税増税を巡っては財界の反発が予想される。このため提言案は「幅広い税目による国民負担が必要だ」と強調している。増税について国民の理解が得られるか大いに疑問だ。
 一体何のために防衛費の増額が必要なのか。有識者会議は敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有が抑止力向上に不可欠だと訴え、5年以内に十分な数のミサイルを配備するよう求める方針だという。
 敵基地攻撃能力の保有は、憲法9条に基づく専守防衛という日本の安全保障政策の大転換である。国会で議論し、国民の理解を得る前にミサイル購入という既成事実だけが一人歩きしている。安全保障政策の決定過程が不透明で危うさを覚える。
 政府は次期中期防衛力整備計画(中期防)について、2023年度からの5年間総額で40兆円超を視野に検討している。毎年1兆円程度ずつ増額させ、最終年度には国内総生産(GDP)比2%相当の10兆円、本年度の約2倍に達する。増額分は、増税を前提とした「つなぎ国債」で賄う方向だという。つなぎ国債は将来の増税による収入で返済すると法律で定めた上で発行する。仮に法人税増税が決まれば、その返済財源に充てられることになる。
 防衛費大幅増ばかり先行しているが、自衛隊の予算の使い道に無駄はないのか。組織の見直しで削減できる部分があるのではないか。その議論が見えない。
 政府は米国製で目標を精密に攻撃できる巡航ミサイル「トマホーク」(射程千キロ以上)の購入を検討している。国産ミサイルの射程延長計画と合わせて、敵基地攻撃能力の手段を多様化させようとしている。
 防衛省は23年度予算案の概算要求で、ノルウェー製の対艦、対地ミサイル「JSM」(射程約500キロ)や米国製の空対地ミサイル「JASSM」(射程約900キロ)の取得費を計上した。
 もはや必要最小限度の実力を超える装備である。こうした攻撃可能な兵器の配備は、日本側が相手の標的になることも意味する。
 足元を見ると、日本の財政は危機的状況にある。22年度末の普通国債残高は約1026兆円と見込まれている。これは税収約17年分に相当すると言われる。国民1人当たりで約1千万円を負担することになる。これ以上、借金を重ねて次世代に付けを回してはならない。防衛費増額のために税金を投入し続けることにも限界がある。
 3年ぶりに対面で実施した日中首脳会談や、日米韓首脳会談など外交努力を積み重ねていくことで、東アジアの安全保障環境の安定に寄与すべきだ。