<社説>陸自第15旅団格上げ 外交努力を最優先せよ


社会
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 政府が、那覇市に司令部を置く陸上自衛隊第15旅団(約2500人)の規模を拡大し、事実上の師団への格上げを検討している。年内に改定される安全保障関連3文書に盛り込まれる見通しだ。米軍基地の過重な負担がある中での自衛隊増強に、玉城デニー知事は「過重な負担が増える」と懸念を示した。

 「台湾有事」をあおって、国会審議も地元自治体・住民への説明もほとんどないまま、南西諸島の軍事要塞(ようさい)化がどんどん進んでいる。軍拡を進めれば相手も対抗手段を取る。その結果、偶発的な軍事衝突の可能性が高まる。外交努力が最優先されるべきだ。
 南西諸島の部隊へのミサイル迎撃能力の付与を現行の4部隊から11に拡大する計画も判明した。空港や港湾を軍事利用できるよう機能強化する方針も示されている。先月実施された日米共同統合演習「キーン・ソード」では、最新鋭の機動戦闘車が与那国町の公道を初めて走った。
 長射程ミサイルの配備も計画されており、南西諸島が標的になり民間地や民間人が巻き込まれる危険はさらに高まる。民間を巻き込んで戦争準備が進む現状は、1945年の沖縄戦前夜と二重写しだ。
 与那国町ではミサイル攻撃を想定した住民避難訓練が内閣官房、消防庁、県、同町の合同主催で実施された。発射の11分後に上空を通過するという想定だ。有効な避難ができるとは到底思えない。那覇市でも来年1月に実施予定だ。糸数健一与那国町長は、訓練の意義を強調しつつ「間違ってもこの界隈(かいわい)で紛争を起こさないような外交努力をやってほしい」と述べた。
 先月、3年半ぶりに米中首脳会談が行われた。バイデン米大統領は、米国の「一つの中国」政策に変更はないと強調し、「中国による台湾侵攻の試みが差し迫っているとは思わない」と語った。両国の国防相の対面会談も行われ、来年初めには米のブリンケン国務長官が訪中する。危機の回避に向けて対話が継続することを期待したい。
 日中首脳会談も3年ぶりに行われた。防衛当局間の相互通報体制「海空連絡メカニズム」の柱となるホットラインの早期運用開始、外交・防衛当局高官による「安保対話」など意思疎通の強化で一致し、民間交流の活性化でも合意した。習氏は尖閣問題について「政治的知恵と責任感を持って食い違いを適切にコントロールするべきだ」と主張した。経済関係を維持しながら戦争を抑止することが双方にとって最大の国益だ。
 日本は中国側から「米国のお先棒担ぎ」に見えているという。米国の言うままに安全保障政策の大転換を図っている。その結果が沖縄戦の再来となることは断じてあってはならない。対米外交にこそ主体性を持って臨むべきだ。玉城県政も危機感を持って、米中との自治体外交に取り組むべき時ではないだろうか。