<社説>保育園児虐待 子の人権侵害 許されない


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 子どもの人権に配慮し人格を尊重すべき保育士が、使命を放棄して虐待をすることは決して許されない。

 静岡県裾野市の私立保育園に勤務していた保育士3人が園児の足をつかんで宙づりにするなどしていたとして、静岡県警は暴行の疑いで逮捕した。虐待の背景を徹底的に解明してもらいたい。
 虐待は子どもの心身に深い影響を残し、回復のために長期間の治療やケアが必要となる場合がある。まず子どもの心のケアを優先してもらいたい。その上で「第三者評価」の導入など、子どもの最善の利益を考慮した再発防止策を早急に示すべきだ。
 この事件を巡っては今年6~7月ごろ「不適切な保育がされている」との趣旨の内部通報があったが、園長は十分な聞き取りをせず、市や県警への通報も見送った。園側は職員に虐待を口外しないよう求め、誓約書を保育士らに書かせた疑いが持たれている。
 まず職場環境に問題がある。逮捕された裾野市の私立保育園の保育士は「新型コロナウイルスの影響で、突発的にやった」と供述しているという。日頃の業務だけでなく、コロナ対応が加わり保育士が気持ちに余裕がなければ子どもの気持ちに寄り添えないだろう。日々の保育を職場全体として振り返る体制づくりが必要だ。
 園だけでなく市の対応も問題だ。8月に把握し(1)園児にカッターナイフを見せて脅す(2)倉庫に閉じ込める(3)「ぶす」と発言(4)足をつかんで宙づりにする(5)ズボンを無理やり下ろす―といった虐待行為を確認した。だが、市は県にすぐ連絡せず、保護者への説明も怠ったとされる。関係者が事を深刻に捉えていなかった可能性がある。
 裾野市だけの問題ではない。富山市の認定こども園の園児虐待問題で、富山県警は暴行の疑いで保育士2人を書類送検した。仙台市の認可外保育所では園児に下着姿で食事をさせる不適切な保育が問題視され、保育士1人を無期限の出勤停止、別の2人を減給処分にした。
 厚生労働省は2020年度、子どもへの暴言や乱暴な関わりなど「不適切な保育」に関する調査を実施し、19年度に全国で345件あったことを確認した。
 対策をまとめた手引きでは「不適切な保育」を防ぐために専門の評価機関による調査といった「第三者の視点」を入れる重要性を指摘している。省令でも保育所での第三者評価を努力義務としている。日々の保育の在り方について保育士の気づきを促す狙いがある。だが裾野市では対策が十分に浸透していなかったという。不適切な保育が疑われる事案が発生した場合の保育所、市町村、都道府県の役割を明確にする必要がある。
 保護すべき子どもの虐待は子どもに対する重大な権利侵害である。何人も虐待をすることは許されない。