<社説>防衛増税1兆円 「規模ありき」は問題だ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 岸田文雄首相は、防衛力を抜本的に強化・維持するため、2027年度以降の毎年度約4兆円の追加財源が必要だと述べ、このうち1兆円強を増税で賄う方針を表明した。

 憲法に抵触しかねない敵基地攻撃能力の保有を前提に、国民に負担を強いる増税に踏み込む姿勢は極めて拙速である。肝心の「防衛力の抜本的強化」の中身を国民に示さないまま、予算規模ありきで事を進める手法は問題だ。
 物価高で国民があえいでいる中、一体何のために防衛費の増額が必要なのか。説明を尽くしたとは言えない。
 首相は政府、与党が8日開いた政策懇談会に出席。防衛費を23年度から段階的に増やし、27年度まで5年間で総額約43兆円を確保することと合わせ、財源確保の考え方を示した。
 財源は増税、歳出改革、決算剰余金、新たに創設する「防衛力強化資金」の四つの手法で捻出する。23年度から、まずは増税以外による財源確保を先行させ、27年度以降はこれらで毎年度3兆円程度を賄う。不足する分を増税で補い、27年度以降は1兆円強となる。
 1兆円強の増税は、法人税を軸に調整が進む見通しだが、増税対象などを巡り曲折が予想される。1兆円あれば児童手当の高校までの延長が可能になる。小中学校の給食無償化も可能だ。
 歳出改革とは防衛費以外の経費を削ることを意味し、国民生活に影響を与えかねない。
 決算剰余金は国の一般会計の余りで、毎年1兆円ほど発生する。半分は国債償還に充てることが法律で規定され、もう半分は補正予算の財源に充てている。防衛費に使われれば赤字国債(借金)の発行が増えることになりかねない。国と地方の長期債務残高は2022年度末に1247兆円に達すると見込まれ、主要先進国の中でも最悪の水準にある。これ以上の借金は将来世代につけを回す。
 新設する防衛力強化資金は、特別会計で生じる剰余金や国有資産の売却収入を活用する。このうち「外国為替資金特別会計(外為特会)」の剰余金は、これまで7割を目安に一般会見に繰り入れて赤字財政を補ってきた。国債発行の抑制を支える財源を防衛費に転用すれば、赤字財政の改善は見込めない。
 つまり、決算剰余金や特別会計の剰余金は不安定な財源であり、長期的な安定財源確保にはほど遠い。
 そもそも「防衛力の抜本的強化」の中身が不透明だ。防衛省が対外的に説明しているのはスタンド・オフ・ミサイルの研究開発、総合ミサイル防空能力、自衛隊独自の衛星打ち上げ、施設の整備、装備品の取得、弾薬の備蓄拡充などだ。
 なぜ必要なのか具体的な説明がないまま、予算増に合わせて事業を詰め込んでいないか。予算増の前に組織の整理など、スクラップ・アンド・ビルドが先だ。