<社説>29市町村旧姓使用認めず 選択的夫婦別姓制実現を


社会
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 琉球新報が県内市町村職員の旧姓使用について調べたところ、全41市町村のうち29市町村が非正規職員の旧姓使用を認める規定を設けていなかった。うち10市町村は正規職員に対する旧姓使用を認める規定はあるが、非正規は除外している。正規・非正規含め職員の旧姓使用を認める規定がない市町村も19町村あった。

 旧姓使用を正規職員は認めるが、非正規は認めないというのは明らかにおかしい。同様に認めるべきだ。そもそも日本は民法で婚姻の際に必ず一つの姓を捨てることを強要している。姓を捨てるのは女性が圧倒的に多く、それが女性のキャリア形成に悪影響を与えている。そのような制度は日本だけと言われている。国連は繰り返し是正を勧告している。旧姓使用を認める動きが広がっている現実もある。国会は夫婦別姓制度の実現に向け議論を急ぐべきだ。
 正規職員に限り旧姓使用を認めてきた県も非正規職員にも認める方針に変わった。これに先立ち、非正規職員に認めていなかった県教育委員会も認める方針に転換した。
 きっかけは県教委で非正規職員だった30代女性が県庁の「県民ご意見箱」に旧姓使用を認めるよう投稿したことだ。掛け持ちで複数の職場で働いていた女性は勤務時、旧姓と戸籍上の印鑑を持たざるを得ず、職場によって印鑑を使い分けていた。専門職の女性は戸籍上の姓を使用すると旧姓で培ってきたキャリアが失われる懸念もあった。
 こうした悩みは自治体の職場に限らない。2019年から、住民票やマイナンバーカードの写し、運転免許証にも旧姓を通称として併記できるようになったが、契約の際や職場での旧姓使用の可否は各企業の判断に委ねられている。職場によっては認められない。広島市の女性が旧姓使用を望んでも職場が許さず、やむなく離婚し、約30年間事実婚を続けている事例もある。
 民法は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」として夫婦別姓を認めていない。この規定を巡り最高裁は15年と21年の2回、合憲と判断した。しかし15年は裁判官15人中5人、21年は4人が違憲とした。21年の判断の際、大法廷は姓を巡る制度の在り方は「国会で議論、判断されるべきだ」として立法府の取り組みを促した。国連女性差別撤廃委員会は民法の規定は「差別的」だとして03年から繰り返し是正を勧告している。
 国連の指摘のように、旧姓使用を認めない問題の根底には女性への差別がある。非正規雇用者の割合は女性が男性の2倍に上るため非正規職員だけ旧姓使用を認めないのは女性への差別につながる。
 名前はその人のアイデンティティーを構成する要素となる。憲法がうたう個人の自己決定権や人格権を重視し、男女平等社会を実現するためにも国会は夫婦別姓制度の導入に向けた議論を急ぐべきだ。