<社説>阪神大震災から28年 有事の前に災害に備えよ


社会
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 6434人が亡くなった1995年の阪神大震災から28年を迎えた。犠牲者を悼み、防災の誓いを新たにしたい。

 2011年の東日本大震災、16年の熊本地震など地震災害はその後も続き、豪雨災害も毎年のように起きている。これらにどう備えるのかが問われ続けてきた。ところが今、日本は隣国を「脅威」と位置付け、膨大な予算を費やし戦争への備えを猛スピードで進めている。災害からの復興も対策も道半ばなのに、それでいいのだろうか。
 沖縄も「災害列島」の中にある。本紙論壇で昨年11月、日本防災士会沖縄県支部顧問の新城格氏が「遅々として進まない防災対策」と題して県内の課題を指摘した。災害弱者への対策、緊急避難場所の指定、地域防災計画と地区防災計画の策定や改定の遅れを挙げ、警鐘を鳴らした。
 沖縄県地域防災計画では台風、地すべり、河川の氾濫、高潮、土砂災害、地震・津波についてそれぞれ被害想定をしている。琉球海溝での地震を20のケースで想定し、東日本大震災と同じマグニチュード9.0で津波による最大遡上(そじょう)高は那覇港8メートル、那覇空港11メートル、平良港12メートル、石垣港14メートルなどとした。死者数は、最も多い想定で約1万1千人とし、津波がなければ約450人とした。高潮被害も想定している。地球温暖化による台風の強大化や海面上昇も被害拡大につながるだろう。
 沖縄は、インフラも経済活動も、沿岸部の標高の低いところに集中しており、埋め立て地も多い。隣県への陸路がなく、港湾・空港が被害を受ければ人の移動もままならず物流も途絶える。しかも多くの離島がある。救助・救援活動には、他県とは比較にならない困難さがある。沖縄県民や観光客が安心できる防災対策は急務だ。
 それにもかかわらず、沖縄周辺は、南西諸島での戦闘を想定した「台湾有事」一色に染められようとしている。住民は不安を強めざるを得ない。
 石垣市は、有事の際、竹富町と合わせ住民、観光客6万5千人余の避難に1日延べ45機の航空機を使って約10日かかると想定している。ミサイル攻撃を想定した避難訓練を実施した与那国町では、島外に避難する住民を支援する基金を設置するという。
 仮に住民の輸送が可能だとしても、避難者の居場所はどうするのか、いつ戻れるのか、補償はどうなるのか。どう考えても現実的ではない。
 隣国を敵視して一触即発の事態となり戦争を招けば、それは人災に他ならない。軍拡競争に走ること自体が、国民の安全に逆行する。
 気象災害を防ぐことは難しく、大規模地震の予知は困難だ。あす起きてもおかしくない災害こそが、備えるべき「脅威」だ。戦争を起こさない政治・外交に全力を尽くし、防災、子育て、教育、福祉、経済対策にこそ予算を投じるべきだ。