<社説>スポーツ暴力相談最多 支配の発想は人権侵害だ


社会
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 日本スポーツ協会(2018年に日本体育協会から改称)が暴力パワハラ問題で設置した窓口への相談件数が、22年度は過去最多の300件超となる見通しだ。殴る、蹴るといった体罰は14%で減少してきた一方で、暴言が最多の34%、それ以外のパワハラ(無視、差別、罰走など)が29%あった。

 柔道暴力指導問題をきっかけに13年に日本オリンピック委員会や日本体育協会が「暴力行為根絶宣言」を採択して以降、体罰は減少したが、心に傷を負わせる「陰湿化」の傾向が強まっている。スポーツ暴力の根絶は道半ばだ。
 相談した被害者の4割が小学生で、中学生、高校生が1割ずつと、児童生徒が6割を占めることを重く受け止めなければならない。識者は「理屈で諭すより手っ取り早く怖がらせたり嫌な思いをさせたりして、自分の思い通りにコントロールしやすい」と指導者の心理を指摘する。勝利至上主義を背景に、選手や児童生徒を支配下に置くのは、人権侵害である。
 沖縄県内では、21年1月に県立高校の運動部主将が顧問の叱責(しっせき)を受け自ら命を絶つ「指導死」が起き、衝撃を与えた。その後、21年5月に発表された高校の20年度部活動実態調査では、ハラスメントを訴えた生徒は133人おり、22年3月発表の第2回調査では225人に増えた。回答率は第1回31%、第2回26%にとどまっており、被害者はもっと多いとみられている。
 県教育委員会は18年に「運動部活動などの在り方に関する方針」を策定するなどしてきた。昨年12月からは、高校生自身が暴力や暴言、ハラスメントのない部活動を目指して協議する「高校生検討委員会」が実施されている。
 「部活は私たちのもの」を合い言葉に県内7校の22人が4回の会合を行った。「指導者の意識が変わらなければハラスメントはなくならない」として(1)指導者(2)学校(3)部活動の仲間(4)保護者―と順位を付け、それぞれに対するメッセージを「県高校生部活動ビジョン(仮称)」素案にまとめた。来月2日に最終決定する予定だ。
 ビジョン素案では、指導者に対して「部員が指導者とコミュニケーションを取りやすい環境をつくってほしい」、学校に対して「生徒が安心して活動ができる環境をつくってほしい」、仲間に対しては「上下関係を気にせず悩んでいることがあったら相談してほしい」、保護者に対しては「私たちの味方でいてほしい」などと求めている。指導者や学校に人権と自主性の尊重を求める、まっとうな内容である。
 学校教員の負担を減らし地域人材などを活用する、部活動の地域移行も始まっている。地域移行に際しても、この高校生ビジョンが道しるべになるだろう。少年野球や他競技の地域クラブなどにも波及するよう期待したい。