<社説>県民世論調査と政府 沖縄の危機感に向き合え


社会
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 有事では最前線に立たされる恐れがある沖縄県民の強い危機意識が如実に表れた。政府の防衛力強化に関する本紙などの県民世論調査で、51.9%が「支持しない」と回答し、「支持する」の24.4%を大きく上回った。

 防衛強化は周辺国との緊張感を高め、ミサイル部隊の配備についても抑止力向上にはつながらないと半数以上が感じている。専守防衛を逸脱する軍備強化ではなく、対話を重視する平和国家の姿勢を貫くことを県民は求めている。
 敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有について、昨年末の共同通信社による全国調査は賛成が反対を上回ったが、県民調査では反対が過半を占めた。防衛費増額とそのための増税には全国と同様に反対が上回ったが、その賛否の差はより大きなものとなった。
 政府の安全保障関連3文書に示された南西諸島への自衛隊配備強化についても「賛成」28.7%に対し、「反対」は54.2%と開きが出た。反対の理由で最も多いのが「沖縄が他国の標的にされるから」(59.3%)だった。
 政府は配備強化で抑止力が高まると主張するが、敵の基地を攻撃する能力を保有するという方針なのだから、逆に狙われる可能性が高まると県民が感じることは当然だ。抑止力強化一辺倒の政府の姿勢はこの地域に暮らす者として受け入れることは難しい。
 自衛隊増強に反対する理由には約2割が基地負担の増加を選択した。米軍基地の整理縮小さえ、県内移設の呪縛によって進展していない。さらなる負担は受け入れがたい。
 調査結果には沖縄戦のような惨状を二度と繰り返してはならないとの県民の切実な願いが表れている。それと逆方向に日本が進んでいることへの不安と憤りを表明したとも言えよう。ところが政府はこのような県民の願いや不安に向き合おうとはしない。
 安全保障政策などについて岸田文雄首相は国民の理解を得る努力を重ねると繰り返す。ただ、国会論戦に先立ってバイデン米大統領との首脳会談で防衛費増額を表明するなど、米国ありきの姿勢であり、真に国民の理解を得ようと考えているのか疑問だ。
 岸田首相は集団的自衛権行使が可能となる「存立危機事態」の際に敵基地攻撃能力を発動できるとの考えを示した。国際法違反の先制攻撃と受け取られかねない。発動判断を抑制的にするためにも示すべき具体的な事例を国会で問われたのに対し、「手の内を明かすことになる」として説明を拒んだ。説明を尽くさず、なし崩し的に米軍との軍事一体化を進める姿勢は国民の理解を得られない。
 県民調査では普天間飛行場の辺野古移設について、64.1%が反対を選択した。県内移設であり、機能が増強される新基地建設への根強い反対がまた示された。頑迷な米国追従、軍事強化を改め、生活者の声に耳を傾けるべきだ。