<社説>首相補佐官差別発言 人権感覚なき政権、退場を


社会
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 首相秘書官の荒井勝喜氏が性的少数者に対する差別発言で更迭された問題は、一個人の暴言では済まない。岸田文雄首相をはじめ、政権内の人権意識が欠如しているとしか思えないからだ。

 荒井氏の差別発言は、首相の国会答弁が発端だ。岸田政権ではこれまでにも人権意識の希薄な大臣、政務官が事実上更迭されてきた。繰り返される更迭劇は本質的な解決を先送りするだけだ。
 解決できないのであれば、人権感覚なき政権は、政治の舞台から退場するしかない。
 1日の衆院予算委員会で同性婚の法制化について問われた首相は「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と述べ、否定的な考えを示した。この答弁の真意を聞かれた荒井氏が「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」と性的少数者への暴言をはいた。
 荒井氏は発言を撤回し「プライベートの意見」であると説明している。だが差別を助長する発言は思想・良心の自由、公私の区別とは全く関係がない。差別を否定するのが民主社会の在り方だからだ。
 「首相がそういうことを考えているわけでもない」と荒井氏は言うが、1日の答弁や1月の施政方針演説を見てもその説明は納得しがたい。
 施政方針演説で「多様性」に言及したのは「包摂的な経済社会づくり」の項目だ。そこで触れられているのは、労働力としての女性や障がい者、高齢者の多様な働き方を促進するという内容だ。
 性的少数者に関して言えば、全国で255自治体が同性カップルを婚姻相当と認める制度を導入した。札幌地裁は2021年3月、同性婚を認めない現制度を違憲と断じている。政治的な課題として挙がる性的少数者の法的権利に関し、首相は施政方針で一言も触れていない。
 更迭されたのは今回に限らず「法相の仕事は死刑執行のはんこを押す地味な役割」と繰り返し放言していた葉梨康弘前法相、LGBTカップルは「生産性がない」など一連の言動が問題視された杉田水脈前総務政務官がいる。
 「(LGBTは)生物学上、種の保存に背く」と発言した簗(やな)和(かず)生(お)文部科学副大臣は、就任当初から政権の姿勢が問われたが、現在も現職のままだ。
 人権への無理解、少数者差別が悲劇を招くことは歴史が証明する。障がい者や同性愛者を迫害したナチスドイツ、「朝鮮人暴動デマ」による関東大震災時の虐殺などだ。
 歴史の反省を踏まえ、差別のない社会をつくるのが政治の役割である。差別を助長する言動は、民主社会の敵としか言いようがない。
 首相は「任命責任を感じる」と述べている。責任は行動とともに「取る」あるいは「果たす」ものであり、感じるだけでは無意味だ。
 首相は足元を見直し、先進国首脳にふさわしい人権感覚を持ち合わせているのか、行動で示してもらいたい。