<社説>ヘイト条例「県民」対象 実効性高める運用努めよ


社会
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 県は、差別的言動(ヘイトスピーチ)防止を図る「県差別のない人権尊重社会づくり条例」案にある差別解消の対象に「県民」を盛り込んだ。14日開会予定の県議会2月定例会に提案する。可決されれば4月1日から施行する。

 県民であることを理由とした差別的言動は、意見公募の段階では「インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷」への枠内にとどまっていたが、街頭でも県民に対する差別的言動があることを踏まえ、県は条文内に格上げした。対策を強化する考えだ。
 この対応方針を評価したい。一方で県は罰則の導入は見送った。憲法上保障された表現の自由を制限することに慎重なためだ。その姿勢は理解できるが、差別街宣に対抗する市民や有識者からは罰則導入を求める声が強い。県は条例の実効性を高める運用に努めつつ、それでも効果が弱ければ、表現の自由に配慮しながら罰則規定導入の是非を改めて議論してもよい。
 条例制定を目指すきっかけは、那覇市街地で繰り広げられた、中国人観光客らへの差別街宣だった。街宣に対抗する「沖縄カウンターズ」のメンバーら市民の活動によって現在は沈静化しているが、沖縄の人々を標的にした「沖縄ヘイト」を含め、差別的言動は後を絶たない。
 昨年1月、沖縄署に数百人の若者が集まった騒動を巡り、ネット上で「日本人のフリしたゴミクズ共め」「沖縄は猿の巣窟」など差別の言葉があふれた。他にも沖縄への侮蔑、やゆなどが氾濫している。
 日本国内では初の反人種差別法と評価されているヘイトスピーチ解消法が2016年に制定された。被害者が訴えた裁判の判決に活用され、各地で条例制定の動きが広がるなど一定の効果があるが、ヘイトはいまだに収まらない。禁止規定や罰則がない理念法であることが「限界」として指摘されている。
 さらに解消法は差別的言動の対象を「本邦外出身者」に限定しており、沖縄の人々が含まれない。このため解消法の網から抜け落ちる沖縄ヘイトが放置され、強まる傾向さえある。こうした状況から、沖縄の人々も対象にすべきだという意見が強まっていた。
 条例案は外国人や性的少数者も差別解消の対象とした。多様性を重視し共生社会を目指す姿勢の表れとして評価できる。問題は実効性である。
 差別的言動について外部有識者による審議会で差別に当たるかを諮り、該当する場合は表現内容の概要や氏名を公表するとしている。これには「生ぬるい」との指摘もある。
 県は、こうした指摘を真摯(しんし)に受け止め、施行後、運用効果の検証を徹底する必要がある。罰則規定の導入や被害者救済の在り方も含めて条例を柔軟に見直すことも視野に入れるべきだろう。玉城デニー知事も「差別は絶対に許さない」という強い姿勢を示し続けることが重要だ。