<社説>県政運営方針 緊張緩和へ実行力発揮を


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 玉城デニー知事が県議会の2月定例会で2023年度の県政運営方針を示し、アジア太平洋地域の緊張緩和に向けた自治体外交の推進を表明した。コロナ禍に苦しむ県経済の立て直しを誓った。それを具現化できるか、実行力が問われている。

 安保関連の記述が大幅に増えたことが今回の特徴である。この中で、東アジアの厳しい安全保障環境と急激な軍備増強へ危機感を示した。
 昨年の安全保障関連3文書の閣議決定に対し、玉城知事は憂慮を表明した。「国民的な議論や地元に対する説明がないまま、南西地域を『第一線』とする安保関連3文書が策定されたことは、熾烈(しれつ)な地上戦の記憶と相まって、県民の間に大きな不安を生じさせる」という認識は多くの県民に共有されよう。
 他方、米中対立の顕在化や中国の軍事強化、北朝鮮のミサイル発射など、東アジアの厳しい安全保障環境にも触れた。その上で「平和的な外交、対話による緊張緩和と信頼醸成」を求めた。
 そのための沖縄からのアプローチが自治体外交である。玉城知事は「平和構築に貢献する独自の地域外交を展開するため、知事公室内に地域外交室を設置する」と述べた。
 沖縄にとって自治体外交は目新しいものではない。在沖米軍基地による過重負担の軽減を目指した対米要請行動は西銘順治県政から始まった。民間レベルでも沖縄県系人ネットワークを生かした多様な国際交流も展開された。
 「外交・防衛は国の専権事項」と言われるが、この考えにとどまっていては基地問題は前進しない。1972年の施政権返還以降、今日まで続く政府の沖縄施策で県民はそのことを実感してきた。「沖縄の声」を米政府に直接届け、事態を動かしていく必要があったのだ。
 玉城知事が掲げる自治体外交はこれまでの経験を踏まえ、「平和構築への貢献」という目標を定めた。沖縄の持つソフトパワーを生かした自治体外交によってアジア太平洋地域の緊張緩和に寄与するというものだ。
 それは「戦争を止めるための自治体外交」と言い換えてもよい。沖縄の英知を結集し、力強く推し進めてほしい。玉城県政の真価、さらには「万国津梁(ばんこくしんりょう)」を自認する沖縄の力が試されている。
 米軍基地・安全保障問題と並んで重点的に取り組む項目として、玉城知事は「県経済と県民生活の再生」「子ども・若者・女性支援施策の充実」を挙げた。いずれも新型コロナウイルス感染症の影響の長期化による深刻な経済状況、子どもの貧困問題の改善を目指すものだ。各種施策を着実に進めてほしい。
 病休者が増加傾向にある教職員の働き方改革やメンタルヘルス対策を明記した。県教育委員会が設置する新たな課を中心とした効果的な施策展開を求めたい。