<社説>学術会議法改正案 学問の独立を保障せよ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 政府は日本学術会議の組織見直しのため、会員選考に第三者が関与する選考諮問委員会(仮称)新設を柱とする学術会議法改正案の概要を明らかにした。会員選考では諮問委の意見に尊重義務を課す。

 政府案に対し、学術会議は「歴史の転換点となり得る大きな問題だ」(梶田隆章会長)と強く反発している。
 会員選考に政府の意向を反映しなければならないのであれば、学術会議の独立性は失われる。憲法が保障する学問の自由をも侵す。政府案はとうてい認められない。
 そもそも政府が学術会議の見直しを言い出したのは、菅義偉前首相による新会員6人の任命拒否が発端だ。拒否の理由を明確に説明することが菅氏、そして政府に課せられた責任である。組織の在り方に論点をすり替える手法では国民も納得できない。
 学術会議法改正案で新設する諮問委について、政府は選考の透明性を高めるとする。現在は会員らによる候補者選考を経て首相に推薦する。推薦に基づき首相が任命する形式だ。しかし議論の発端となったのは選考過程の不透明さでなく、菅氏が一方的に任命拒否したことだ。透明性を理由に挙げるのは筋違いだ。
 学術会議は既に選考方針を明らかにしている。会員のジェンダーバランスや地域バランスに考慮し、大学や研究機関だけではなく産業、医療、法曹、教育といった現場で優れた研究・業績を有する人物の選考を検討するという内容だ。候補者数や選考過程も公表するとしており、透明性は十分に確保されている。
 政府案に批判が集まるのは、時の政権に批判的な人物や政策・主張が相いれない人物を排除するのに諮問委を運用するのではないか、という懸念が払拭されないからだ。
 政府案公表を前に会見した元学術会議会長の広渡清吾東京大名誉教授は、諮問委の役割に関し、任命拒否の「前さばき」で拒否を正当化するものと指摘し、学術会議の存在意義を損なうと批判した。学術会議が専門的、広範な視点で推薦しようとする人物を諮問委が拒否するのであれば、選考の不透明さは逆に深まる。
 改正案でもう一つの焦点は「首相の任命権が形式的か否か」だ。従来は学術会議の推薦を追認する形式的なものとされた。改正案は任命拒否正当化のため、実質的な任命権は首相にあるとする解釈を維持しようとしている。
 諮問委と首相の実質的な任命権、この二つを実施すればどうなるか。学者や作家でつくる「学問と表現の自由を守る会」は昨年12月の声明で「政府の御用機関」に変質すると指摘した。
 改正案は組織論にとどまらず、日本の学問の自由が保障されるか、侵害されるのを許すのかという問題をはらむ。全ての国民に関わる課題だ。
 今こそ熟議が必要だ。政府は改正案を撤回し、国民的議論を経た上で再考すべきだ。