<社説>ウクライナ侵攻1年 停戦へ国際社会が協調を


社会
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 ロシアによるウクライナ侵攻から24日で1年となった。戦争終結の道筋は見えず、ウクライナ、ロシア双方で軍民の死傷者が増え続けている。

 国連人権高等弁務官事務所の発表によると、ウクライナでは少なくとも子ども487人を含む8006人の民間人が死亡、1万3287人が負傷した。確認できた人数だけのため、実際の犠牲者はさらに多いと見られる。そして約800万人が国外での避難を余儀なくされている。
 ウクライナ政府にとって侵略された国土の一部を取り戻すことが譲れない目標であることは十分に理解できる。だが、ロシアとの戦争を継続するための各国の軍事支援は、終わりの見えない戦争をさらに長引かせてしまう。戦闘が長期化するほどにウクライナの荒廃は進み、教育や経済の破壊が大きくなる。
 一刻も早く戦闘を止めるための努力と協調こそが国際社会に求められる。
 侵攻から1年を前にした20日、米国のバイデン大統領はウクライナの首都キーウ(キエフ)を電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。ウクライナへの支持を改めて示し、武器や資金の追加支援を約束した。
 これに対しロシアのプーチン大統領は21日の年次報告演説で戦闘の継続を強調した。さらに、米国との核軍縮合意である「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行を停止することも表明。核を脅しに使う危機的な状況だ。
 ロシアによるウクライナ侵攻は主権国家に対する武力行使であり、国際法や国連憲章に違反する。国連常任理事国で核保有大国であるロシアによる暴挙は、国連を中心とした戦後の国際秩序を一変させた。断じて容認できない。
 ただ、ロシア国内で戦争への批判が高まってプーチン政権が崩壊するような気配は表だって見られない。停戦のためには第三国が仲介し、妥協による和平の可能性も探らなければならない。
 戦闘が長引くほど、中東や台湾海峡、朝鮮半島など情勢が不安定化する地域に紛争が飛び火し、世界規模の戦争に発展する恐れが強まる。その事態を防ぐためにも、ウクライナの戦争を止めることが国際社会にとって急務となる。
 米国、中国の両大国が停戦の呼び掛けで歩調を合わせることが、ロシアに侵攻停止をのませる圧力になる。逆に中国がロシア支援の立場を明確にすれば世界の分断が決定的となる。米中両国は対立を深めている場合ではない。
 日本は米中の対話を促す橋渡し役となり、ウクライナに和平をもたらす手だてを講じる役割がある。岸田文雄首相は5月のG7首脳会議(広島サミット)で存在感を示すため、事前のウクライナ訪問を模索していると伝えられるが本末転倒だ。サミット議長国として、平和憲法を持つ国のリーダーとして、中立の立場を崩すべきではない。