<社説>新START停止 核による脅し許されぬ


社会
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 ロシアのプーチン大統領が議会への年次報告で、新戦略兵器削減条約(新START)の履行を一方的に停止すると発表した。条約からの脱退は否定しているが「米国が核実験を行うなら、われわれも行う」と強硬姿勢を見せている。

 ロシアは昨年8月、新STARTに基づく米側の査察受け入れを停止した。そして今回の履行停止である。ウクライナ侵攻から1年を経て孤立化を深めるロシアの核による脅しだと言わざるを得ない。このような姿勢を国際社会は許さない。ロシアに強く自制を求めたい。
 新STARTは米国とロシアが兵器システムや施設の数、位置、技術的特性に関するデータを交換すると定めている。トランプ政権が2019年に中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱して以降、新STARTは米ロ両国の間にあった唯一の核軍縮条約だった。
 その条約が効力を失い、核兵器を巡る米ロ間の意思疎通が閉ざされたことは国際社会にとって大きな脅威である。ウクライナでの戦闘でプーチン大統領はこれまでも核兵器使用をちらつかせており、世界の安全保障に大きな影響を及ぼしてきた。核戦争の危機をあおるような身勝手な言動は受け入れられない。
 国際社会はロシアに厳しい目を注いでいる。国連総会(193カ国)はロシアのウクライナ侵攻を協議する緊急特別会合で、ロシア軍の即時撤退を要請する決議案を141カ国の賛成で採択した。ロシアの国際法違反を非難する意思を示したのである。
 採択に法的拘束力はないが、国連加盟国の多数が「武力の行使や脅しによる領土の獲得」の違法性を再確認し、侵攻による市民の被害に遺憾を示した意味は重大である。プーチン大統領は国連決議を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。ウクライナから速やかに撤退することが、国際社会を納得させる唯一の道であることを自覚してほしい。
 採択前に演説した日本の林芳正外相は、ロシアが核兵器保有国の立場を悪用していると批判し、「ロシアによる核兵器の使用、威嚇は決して許されない」と強調。ロシアの「即時かつ無条件の軍撤退」を訴えた。
 ロシアによる新START履行停止によって、戦略核を巡る世界情勢は一層不透明感を増した。核不拡散体制は大きく揺らいでいるのである。この危機的状況を被爆国である日本は深刻に受け止める必要がある。核兵器の残酷さを知る日本こそ、核戦争防止に向け説得力のあるメッセージを発することができる。
 今年5月には被爆地・広島で先進国(G7)首脳会議が開催される。それを待つまでもなく岸田文雄首相は核の危機を少しでも緩和するために行動してほしい。米国追従ではなく被爆国としての平和外交を果たすべきである。