<社説>基地内DV被害 被害者支援と周知徹底を


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 在沖米海兵隊員だった元夫と基地内で住んだ際、首を絞められるなどの家庭内暴力(DV)を受けた本島中部在住の30代女性が琉球新報の取材に応じ、米司法制度への不満や基地内で満足のいく支援を得ることの難しさを語った。

 女性は元夫が数年以上、服役することを求めたが、軍司令官は元夫を不名誉除隊にした上で1年程度服役させる司法取引に合意した。女性は刑が軽いことに反発している。司法制度を巡る日米の違いや基地内での被害者支援が課題として浮き彫りになった。
 県は被害者支援に関する情報のギャップを埋めようと基地内外の支援機関の連携に取り組んでいるが道半ばだ。被害者が訴えやすく迅速な支援につながる環境づくりや、支援の存在の周知徹底が必要だ。日本側の被害者の意向を米側の制度に反映できる仕組みも日米で検討すべきだ。
 女性は2018年に海兵隊員の元夫と県内で知り合い結婚。元夫の所属基地がある米カリフォルニア州に移住し、妊娠していた頃からDVを受けた。「死んでいたかもしれない」ほどの暴力だったという。生活費を最低限度しか渡さない経済的暴力も受けた。
 19年に本島中部の米軍基地内に移り住んだ女性は、カウンセリングを受けたことをきっかけに、基地内のDVや児童虐待などに対応する支援事業につながった。医師からは心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。
 日本では、DV被害者の訴えで加害者が逮捕された場合、暴行罪や傷害罪など刑事責任が問われる。法定刑は暴行罪なら2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金などで、傷害罪なら15年以下の懲役または50万円以下の罰金だ。他にも傷害致死罪、殺人罪、器物損壊罪、強制わいせつ罪、脅迫罪、DV防止法違反など刑事罰が問われるケースがある。
 しかし、米軍基地内で発生した米軍人家族に対する犯罪は、日米地位協定によって第一次裁判権は米側が有する。このため日本の捜査機関が関与するのは難しい。
 また、今回のケースのように司令官は司法取引に合意する権限がある。米国では自分の罪を認める代わりに処分を軽くしてもらう司法取引が、一般刑法でも軍法でも広く採用されている。一方、日本では、「他人」の犯罪解明に協力する見返りに自分の刑事処分を軽くしてもらう司法取引が導入されており、贈収賄や独禁法、薬物・銃器関連など主に組織犯罪が対象だ。
 日米で司法制度に違いがあるとはいえ、被害女性から見れば、公正な制度に映らないのは当然だろう。米軍が長期駐留し、日本人と米国人の婚姻が少なくないことを鑑みれば、日米双方の関係機関は、司法制度の違いから生じる溝を埋める努力をすべきだ。まずは何よりも双方の関係機関が連携し、DV未然防止策を徹底することが肝要である。