<社説>空自セクハラ国賠訴訟 組織で性被害を助長した


社会
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 航空自衛官の女性が那覇基地で受けたセクハラ被害について自衛隊が適切な対応をしなかったとして、国に約1168万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

 自衛隊には被害防止のための機能、役割が欠落していた。この不作為によって結果的に女性に対する人権侵害を放置してしまった。心身に与える深刻な被害を考えると、セクハラは暴力である。自衛隊はその暴力を見過ごすばかりか組織で二次被害を助長するような行為にも及んだ。
 弁護団の説明などによると、2010年の那覇基地配属の当初から同僚の男性隊員からセクハラ発言を浴びせられ続け、性生活をやゆする発言を繰り返し受けた。
 上司は加害男性との接点を減らす対応を取ったが、異動の措置はなかった。組織的な対応がなく、逆に女性は別の同僚らの不満を買うこともあったとしている。
 女性の訴えを受けた部隊はセクハラ教育として資料を作成した。ところが加害者の名前は出さず、女性のみが実名だった。しかも、実際に被害を受けた事例を明記し、そのまま隊員に配られた。
 16年に男性隊員を相手取り、損害賠償を求めて提訴すると男性は反訴した。法廷には男性の上司や部下が「セクハラを現認したことはない」との陳述書を提出したが、これは部隊の法務班が書面のひな形を作っていた。しかも、女性が提訴する前、法務班は「個人の問題には不関与」と答えていたというから理解に苦しむ。
 自衛隊は組織ぐるみでセクハラ行為を助長、さらには隠(いん)蔽(ぺい)をしたとする弁護団の訴えは当然である。
 個人への損害賠償訴訟で、女性は関係者に提供された組織内の調査資料を証拠として裁判所に提出した。これが情報漏えいに当たるとして、女性は訓戒処分を受けた。本来であれば公益通報としても、被害を訴える側としても守られるべきである。
 隊内だけではなく、防衛省統合幕僚監部(統幕)や本省人事局にも訴えたが救われることはなかったというから事態は深刻である。元陸上自衛官の五ノ井里奈さんが実名で性被害を訴えたことを機に実施された特別防衛監察に昨年10月、情報を提供したが、再調査はされなかった。
 自衛隊は組織防衛に固執するあまり、立場の弱い女性を組織的に追い詰めた。こうした組織であってよいのか。女性が告発しなければ事実は埋もれたままだった。
 セクハラ事案が相次いで明らかになっていることについて、浜田靖一防衛相は28日の会見で「従来の防止対策の効果が組織全体に届いていなかったことの表れだ」と不作為を認めた。
 セクハラに限らず、組織内の不正を明らかにし、ただすための自浄作用が欠落しているのではないか。うみを出し切って改革すべきである。