<社説>出生数80万人割れ 将来不安の解消が必要だ


社会
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 国内で2022年に生まれた赤ちゃんの数(出生数)が初めて80万人を下回った。国は80万人割れを33年と見込んでいたが、10年超速いペースで少子化が進んでいる。

 少子化は複数の要因が絡まるが、将来への不安から結婚や子どもを持つことをためらわないようにするのは政治の責任だ。若者を取り巻く不安定な経済状態を解消する必要がある。
 出生数の減少は今に始まったことではない。国内では1973年の209万1983人を直近のピークに、22年は速報値で前年比5・1%減の79万9728人。50年で6割減という、急速な少子化だ。
 47都道府県で最も出生率が高い沖縄県も、1987年に出生数が2万人を下回って以降、子どもの数が減り続けている。22年の出生数は1万4143人。出生数から死亡数を引いた人口の自然増減は1263人のマイナスで、ついに自然減に転じた。
 少子化と高齢化が同時に進むことで、労働力不足に拍車がかかり、社会保障制度を持続していけるかなど課題は一層深刻になっていく。
 岸田文雄首相は「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明はしたが、具体的な政策も財源も見えず迷走している。
 日本は子ども関連予算が欧州諸国と比べ低水準にある。経済協力開発機構(OECD)によると、出産や育児を公費で支援する「家族関係社会支出」の国内総生産(GDP)比は、出生率が高いスウェーデンは3%を超えるのに対し、日本は2%未満だ。
 岸田首相は2月の衆院予算委員会で、家族関係社会支出の倍増を目指す考えを示した。GDP比2%から4%への引き上げで10兆円程度の予算上乗せを明言したとみられたが、日が変わると「政策の内容を具体化した上で必要な財源を考える」と一転して火消しに走った。
 木原誠二官房副長官に至っては「出生率がV字回復すれば(倍増は)実現される」と語り、後先がひっくり返った発言に批判が集まった。岸田政権の本気度が疑われる。
 コロナ禍と物価高が生活を圧迫している今こそ、子ども予算を大きく増やす必要がある。高校、大学の高等教育費の無償化など、経済負担を軽減する大胆な策を講じることを検討すべきだ。
 大和総研によると、2010年度ごろから現在にかけて、医療保険制度の被保険者(主に正規雇用)の女性は出生率が上昇しているのに対し、被扶養者(主婦やパート等)は低下する変化が見られた。被扶養者となった女性が子どもを持ちにくくなっている現実があるという。
 雇用形態による賃金格差を縮めることは当然だ。出産のため仕事を辞めざるを得ないという状況をなくし、男性の家事・育児参加の推進など社会の意識改革も必要だ。人を大切にする社会が、子どもを育む安心につながる。