<社説>放送法解釈変更 「報道の自由」を侵害した


社会
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 露骨な政治介入の経緯が明らかになった。「報道の自由」を侵害するものであり、到底許されない。

 放送法第4条が定める「政治的公平」の解釈変更を巡り、立憲民主党の小西洋之参院議員が公表した総務省の内部文書について、松本剛明総務相は公式な「行政文書」と認め、全文をホームページで公表した。小西氏が公表した文書と同じ内容だった。
 安倍政権下の2014年から15年にかけて官邸と総務省の間で交わされた協議の内容が記録されている。焦点となったのが「政治的公平」の解釈である。
 放送法4条は、放送番組の編集にあたって放送事業者に「政治的に公平であること」を求めている。この「政治的公平」が保たれているかどうかに関する政府の立場は「一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断する」というものだった。
 行政文書によると、当時の礒崎陽輔首相補佐官が政府の立場に疑問を呈し、「一つの番組でも明らかにおかしい場合があるのではないか」として解釈を改めるよう迫った。きっかけとなったのは一つの情報番組だった。文書では具体的な番組名を挙げ「あんなのが(番組として)成り立つのはおかしい」と批判するやりとりも記録されている。
 当時の高市早苗総務相は15年5月、国会で「一つの番組でも極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と答弁した。高市氏の答弁は官邸と総務省の協議を踏まえたものだった。しかも高市氏に対する質疑内容について官邸は「こちらの方で質問立てしたい」との意向を総務省に伝えていた。
 まさに自作自演である。政権に批判的な番組へのけん制を狙い、官邸主導で放送法の解釈を変えたのだ。岸田文雄首相は「従来の解釈を変更することなく補充的な説明を行ったと承知している」と解釈変更を否定するが、高市氏の答弁は放送局を萎縮させるものにほかならない。
 事実、16年2月の国会で高市氏は電波法に基づき電波停止を命じる可能性にまで言及した。解釈が変わった放送法に照らして番組の「政治的公平性」を評価するのは政府側である。「報道の自由」に対する重大な挑戦だと言わざるを得ない。
 そもそも放送法は「報道の自由」を保障するものである。法の目的について第1条は「放送の不偏不党、真実および自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」と明記している。官邸が主導した解釈変更は政府に批判的な言論を抑えるものであり、本来の放送法の精神にも逆行している。
 行政文書について松本総務相は「関係者の認識が異なる部分がある」と述べ、高市氏は「ねつ造」と反論した。国会答弁だけでも解釈変更は明らかである。関係者は真実を明らかにすべきだ。